濵本智己
JWTジャパン Communication Design Director
大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティングに入社。ビジネスコンサルタントとして、公共交通機関や家電量販店、食品メーカー等のコンサルティング業務に携わる 。2007年に外資系広告代理店に入社後は、ストラテジックプランナーとして、日本マクドナルド、BMW MINI、NIKEやPUMA等のコミュニケーションプランニングを担当する。2016年より、ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパンに参画。戦略のわかるクリエイティブとして、コミュニケーションストラテジーからクリエイティブまでを一気通貫してデザインするハイブリッド型プランナーとして活躍。
SXSWでは、至るところで数々のスタートアップイベントが実施されていますが、アクセラレーターピッチと並んで非常に注目度が高いのが、インタラクティブイノベーションアワードです。
本日は、そんなインタラクティブイノベーションアワードのファイナリストたちによるショーケースが開催されていたので、さっそく足を運んでみました。
デモをその場で体験できるため、言葉で説明されると一見とっつきにくいテクノロジーも、非常にわかりやすく体感することができます。昨年は「VR元年」と言われるほどVRがホットトピックだったそうですが、その影響もあってか、VR/AR関連のプロトタイプが非常に多いように感じました。なので、そのあたりを中心にいくつか気になったものをご紹介したいと思います。
視覚・聴覚・触覚…VRが体験を拡張する
まず紹介するのは「OSSIC X」。OSSIC Xは、世界初の3Dオーディオスマートヘッドフォンだそうです。「3Dオーディオ」と言われてもいまいちピンとこなかったのですが、デモを体験してみて納得しました。
360度の仮想現実空間で、ユーザーに視覚的に没入感を与えてくれるVRデバイスに対して、こちらは聴覚に360度の立体感を与えてくれるオーディオヘッドフォンです。現実の世界でも、距離や向いている方向によって音の聞こえ方は当然変わると思います。この3DヘッドフォンはVR空間の中で、まさにそのリアルな音の聞こえ方を再現してくれます。視覚で没入させるVRと聴覚で没入させるヘッドフォンの組み合わせは、コンテンツ体験の奥行きをさらに押し広げてくれそうです。
次に紹介するのは、Googleの「Tilt Brush」です。今回、僕は初めて生で見ることができました。Tilt Brushは、VRヘッドセットのHTC Viveを装着して、360度のVR空間に自由自在に絵を描くことができるペインティングツールです。コントローラーがパレットと筆になり、色や線を変えながら仮想現実空間に絵を描いていきます。
子どもの頃に想像した夢の世界がVRによって現実のものになった、そんな気がします。魔法使いになった気分です。やっぱりヒトの原体験を進化させて再現してくれるようなエンターテインメントコンテンツは、無条件にポジティブな感情を喚起してくれます。こちらは言葉で説明するよりも、実際に動画をご覧いただいたほうがイメージ沸きやすいと思います。
次に紹介するのは「Voxel Bay」です。こちらは、子どもたちが大嫌いな病院で、涙の代わりに笑顔を見せられるように、VRというテクノロジーを使っています。病院で泣いている我が子の姿を見るのは、親としてはとても胸が痛むものです。僕も娘がいるので、その気持ちが痛いほどわかります。
Voxel Bayは、注射や点滴を受ける際、その恐怖心から子どもたちの注意をそらせるために、ゲームコンテンツが綿密に計算されているそうです。僕も実際にやってみましたが、VR空間の中で自由自在に動きまわる動物たちを目で追いかけるゲームをしていると、そのVR特有の没入感のおかげでリアルな世界から気がそれてしまうというのがすごくよく理解できました。
医療の現場に実際にある問題をテクノロジーで解決するというアプローチは、こういったテクノロジーが一部のテックギークだけでなく、広く世の中に受け入れられるためにも大切なことだと思います。そういう使われ方こそ、テクノロジーの本来あるべき姿なのかもしれませんね。
最後は、「The Music Room」です。これは、仮想現実空間の中から現実のソフトウェア音源を鳴らすことができるという代物です。VRの中にライブハウスがあって、その仮想空間で楽器を演奏すると、実際にリアルな音が生成されるという感じです。
展示ブースでは、ヘッドセットを装着しながらコントローラーを持った男性が、何もない空間でひたすらドラムを叩いていたのですが、聞こえてくる音は完全に本格的なドラムサウンドでした。僕は音楽をやらないので細かなことはわかりませんが、実際に楽器を演奏する人々にとってはたまらないのでしょうね。
ドラムに限らず、レーザーハープなどさまざまな楽器を演奏することができるそうです。いずれにしても、仮想現実空間の中で完結するのではなく、そこから現実の世界に逆アプローチするというところに、ものすごく新しさを感じさせられました。こちらも映像を見ると、より理解していただきやすいと思います。
濱本さんによる現地レポートはこちら
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