なぜ「ダイバーシティ」をテーマにしたマーケティング本を書いたのか
宣伝会議から多様性戦略やダイバーシティ経営に企業としてどう取り組むかをテーマにした書籍『ダイバーシティとマーケティング-LGBTの事例から理解する新しい企業戦略-』を発行した。
近年、企業の経営課題として「ダイバーシティ」という言葉が良く出てくるようになったが、社会的責任、CSR、といった言葉と合わせて語られることが多く、ほとんどの場合、対応しなければならない、考慮しなければならない、配慮しなければならない、といった「負わなければならない責任」として語られている。
また逆に、近年、社会的にもLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)へ注目が集まり、その消費行動の分析から、「マーケティング上、いま企業が狙うべき消費者ターゲット」として、語られることも増えてきた。
しかし、このような語られ方は少し極端ではないか、もっと当事者やその関係者のことを知り、本質的な議論から始めるべきではないか、という気持ちが出てきたのだ。
そこで「ダイバーシティ」とは何か、という基本的なことから、多様性とイノベーションの関係、企業はどう「ダイバーシティ経営」に取り組むのかなどをLGBTの事例を引用しながらまとめた書籍を出すことになったのだ。
<ダイバーシティ vs ユニバーシティ>は正しいか
ダイバーシティという英語は、一般的に「多様化」と日本語訳される。最近では「ダイバーシティ経営」などのマネジメント用語としても目にするようになってきた。新進気鋭のビジネスワードと言っても良いだろう。ただし、最新の広辞苑(第六版、2008年1月11日発行)にはまだ記載されておらず、現時点では日常会話で使われるほど日本人に浸透しているわけではない。ちなみに同書は10年余の周期で新版が出るので、2020年頃に出るはずの第七版にはきっと載ることだろう。
ダイバーシティの語源を辿ると、ラテン語で「di:離れて・バラバラに+verse:向く・方向転換する(英語のturnと同意)」に行き当たる。多様性と訳される由縁だ。また、「di:離れて・バラバラに」を「uni:一つに」に入れ替えることで真逆の概念・言葉ができあがるわけだが、なんとそれは宇宙や全世界、統一を意味するユニバース(Universe)となる。
つまり、「ダイバース=多様性」という理解は決して間違いではないが、「ダイバース ⇔ ユニバース」の対立構造を理解したうえで、あらためてダイバーシティを見直したときにはじめて、その本質がよりクリアになるのではないか、という私なりの問題意識で本書を執筆した。突き詰めると、人は「ダイバース ⇔ ユニバース」のどちらを良しとするのであろうか。そして、私自身はどうなのであろうか・・・。まずそこから考えなければならないだろう。