「LGBTの市場規模は6兆円」は本当か?
さて、私がダイバーシティやLGBTに関心を持つようになったのは、マツコ・デラックスさんの活躍ぶりによるところが大きい。2005年ごろからテレビ露出が急に増え、しかも御意見番としての堂々たる発言を拝聴するようになって、「あっ今、社会トレンドが大きく動いている!」と実感するとともに、なぜ現代人はマツコ・デラックスさんに惹かれるのかを理解したいと思ったからだ。
そうして自分なりに辿り着いたのは、「“男性”性 vs. “女性”性」という昔からのシンプルな構造で割り切ることができない“新しい性のあり方”や“新しい生き方”を容認する社会トレンドが急速に顕在化してきたこと。しかし、実は決して“新しい”のではなく、人類元来の価値観かも知れないこと。そして、白黒つけることを避けたり、八百万の神を信じたりする日本人に、“新しい性のあり方・生き方”は意外なほどすんなりと受け入れられるのではないか、とも直感した。
そこで、新しい生き方やライフスタイルのシンボルとしてLGBTに焦点を当て、彼ら・彼女らのマーケティングポテンシャルを探る「LGBT調査」を2012年に電通で実施した。デリケートなテーマだけに興味本位的なトーンは可能な限り排除したが、それでも「電通はLGBTですらビジネスのネタにするのか」などのお叱りも少なからず頂戴した。
電通での私の主な仕事はマーケットや消費者の分析だったが、LGBTを「新しい特殊な消費者セグメント」と見なすつもりはなかったし、それどころか「一人の人間として何も変わらない当たり前の存在」として捉えたかったのだが、「LGBTの市場規模は6兆円」という言葉だけがセンセーショナルに取り上げられ、情報が拡散し、LGBTは有望な消費者というイメージだけが先行してしまった。実際には、LGBTにも様々な方がいて、一括りにできないのは当然のことだし、当事者にとっても「狙い目の消費ターゲット」扱いされるのはいい気持ちではないだろう。マーケティング分析に求められるのは、今までとは違う新奇で特異な「新しい市場」の発見で、それを強調せざるを得ない因果な商売なのだろう。