ダイバーシティとマーケティングの溝を埋める
2013年に電通を早期退職したのち、まだモヤモヤとした中途半端な気持ちを引きずり続けていた私に、共同執筆者である千羽ひとみさんがLGBT関連の出版企画を持ってきたのが2015年の夏。電通時代のレポートやインタビュー記事を読んで興味を持ってくれたのだそうだ。
ダイバーシティやLGBTとマーケティングに関する考察に、いつかは自分なりのケリを付けたいと考えていた私にとってまさに渡りに船のグッドタイミングだったものの、実際の執筆は予想以上に大変だった。最新事情がどんどんアップデートされるし、日本語で読める論文や記事は決して豊富とは言えない。さらに、表現に留意し、内容を検証しながら書いていたため、遅々として筆が進まなかった。そもそもLGBTという括り自体も、意味をなさないのかもしれないとも考えた。そういった試行錯誤の分、ダイバーシティやLGBTの現状とマーケティング戦略の溝をしっかりと埋められたのではないかと思う。
2017年3月1日にようやく上梓できた本書では、ダイバーシティやLGBTをできるだけ多角的に捉えたつもりだ。それがダイバーシティ(多様性)をテーマに執筆した矜持でもある。LGBTを特殊な事例として捉えるのではなく、多様な生き方をする個人のうちの一人として捉える視点は一貫しているつもりだ。本書がいろいろな意味で読者を刺激出来たら、それ以上の著者冥利はない。このコラムでは以降、本の内容に触れながらLGBTの事例などを引用し、ダイバーシティ戦略とマーケティングのあり方についてお伝えしていこうと思う。
四元正弘(よつもと・まさひろ)
四元マーケティングデザイン研究室代表 元・電通総研・研究主席
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。サントリーでワイン・プラント設計に従事したのちに、87年に電通総研に転籍。のちに電通に転籍。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティングデザイン研究室代表を務め、21あおもり産業総合支援センターコーディネーターも兼職する。
本書は、LGBTの当事者や企業戦略担当など、ダイバーシティの現場にいる人への取材を通して、「イノベーションにつながるダイバーシティ戦略」や「性的マイノリティの視点」を取り込むことで生まれる新しい企業戦略、マーケティングについてまとめた書籍です。ダイバーシティ経営の実践こそが、企業価値を向上させる本当のマーケティングになっていく時代の1冊です。
【目次】
はじめに ドラッカーで考えるマーケティングの基本と本質
第1章 ダイバーシティとはなにか
第2章 性的マイノリティ差別の背景と転換点
第3章 市民・政治の両面で進む性的マイノリティ支援の動き
第4章 LGBTマーケティング1 ~LGBT当人を顧客に想定するケース
第5章 LGBTマーケティング2 ~LGBTを社会運動のテーマとするケース
第6章 性的マイノリティとイノベーション経営
第7章 当事者から見たダイバーシティ・マーケティング参入の注意点
第8章 LGBT視点のマーケティング事例
第9章 改めて考える「ダイバーシティに企業やビジネスはどう向き合うか?」