3月12日(オースティン現地時間夜)、SXSWのメインイベントの一つである、「アクセラレーターピッチ」の優秀企業発表・アワードセレモニーが行われた。
アクセラレーターピッチには、全世界から500以上のスタートアップ企業が集結。著名な起業家や投資家たちの前で自分たちのプロダクトやビジネスアイデアについてピッチを行い、優秀企業を決める。
カテゴリーは10あり、発想のユニークさや収益性、ビジョン、社会的なインパクトなどを基準に審査が行われた。各部門の優秀企業は以下の通り。
<Transportation部門>
SPLT(テキサス州オースティン):ライドシェアのBtoBモデル
SPLTは、自動車部品・電動工具のメーカーのボッシュのメキシコ支社から生まれたスタートアップ。1万5000人の社員を抱える同社では、社員が通勤のためにUberやLyftといった既存のライドシェアサービスを利用することが多かったが、通勤費がかさみ、従業員の家計を圧迫していた。
SPLTは「同じ会社の従業員同士の相乗り」でライドシェアサービスを利用できるプラットフォーム。相乗りすることで、一人当たりの通勤費を圧縮することができる。企業は、SPLTを福利厚生として導入することもでき、「企業に対する社員のロイヤリティを向上させることができる」とアピールした。
<Social and Culture部門>
Lily(カリフォルニア州サンディエゴ):女性向けファッションリコメンド・アプリ
ユーザーの嗜好や悩みをチャットで収集し、そのデータを基に、ユーザーにぴったりの洋服をリコメンドするサービス。バナナ・リパブリックやノードストローム、H&M、メイシーズなど、さまざまなショップのファッションアイテムが取り揃えられている。
過去2年間で収集・蓄積した5万件にのぼるデータから、スタイリングのセオリーを確立しており、ユーザーの心理状況に合わせた柔軟なリコメンドも可能。ユーザーの3人に1人が、そのレコメンドを基にアプリから商品を購入した経験があるという。
<Enterprise and Smart Data部門>
Deep 6 AI(カリフォルニア州パサデナ):新薬開発を支える AIサービス
新しい薬や治療法の効果や安全性を検証し、国の承認を得るために実施される治験。Deep 6 AIによると、この臨床試験の80%は、参加する患者の数が不足するがゆえ、進行が遅れているという。治験の進行が遅れれば、その薬や治療法が多くの患者を救う日は遠のいてゆく。
Deep 6 AIは、人工知能と自然言語処理を診療情報管理に適用することで、膨大な量の診療情報を集約、特定の症状を抱える患者をいち早く見つけ出し、治験とのマッチングを図っている。
<Health and Wearable部門>
Sound Scouts(シドニー):子どもの聴覚を検査できるゲーム
子どもの学習や社会化において、大きな影響をもたらす可能性がある、聴覚障害。だが、自らの聞こえに問題があっても、子どもがその違和感を大人に伝えることは容易ではない。
「Sound Scouts」は、そんな子どもの聴力検査のためにデザインされたゲームだ。オーストラリアの聴覚に関する研究機関「National Acoustic Laboratories」と共同開発したもので、特に小学校(Elementary School)入学前、Kindergartenに入学する年齢の子どもを対象としている。
科学的な聴力検査のメソッドをゲームに落とし込んでおり、ゲーム内で鳴る音に対する子どもの反応によって、聴覚の問題を検知することができる。テスト結果は電子メールで保護者に送信されるほか、医療従事者はポータルサイトを通じて閲覧することができる。静かな場所であればどこでも聴覚テストを行うことができるため、医療機関を受診する時間的・経済的負担を軽減することが可能だ。
<Innovative World部門>
Thimble.io(ニューヨーク州バッファロー):理系教育を楽しくするサービス
電子工学の基本を楽しく学べるキットが届く、月額制のサービス。13歳以上の子どもを対象としており、ロボットアームや目覚まし時計、気象観測装置やクアッドコプターなど、毎月さまざまなデバイスを組み立てて遊びながら、電子工学の素養を身に付けることができる。
会員専用サイト(学習プラットフォーム)には、キットの組み立て方を説明する動画が公開されているほか、会員同士が交流できるコミュニティや、ウェビナーも用意されている。ハードとソフト、両方のサービスを合わせて提供していることが特徴だ。1カ月89ドルから、3カ月(79ドル/月)・6カ月(69ドル/月)・12カ月(59ドル/月)契約まで選ぶことができる。
<Sports部門>
Brizi(トロント):スポーツ観戦の体験価値を高める仕掛け
スポーツの試合の合間に、スタジアムのメインビジョンに観客を写し出される演出を、見たことがある人は多いだろう。多くの場合、誰が写るかはカメラマン次第だが、BriziCamは観客が自分の意思で自らを撮影し、その写真を自由にシェアすることができる。使い方は簡単で、手元のスマートフォンを使って、スタジアム内に設置されたロボットカメラを自分のほうに向け、セルフィーを撮影するだけ。
写真をシェアする際に付けられるフィルタがブランド広告主向けの広告枠になっており、スポーツファンに向けてブランド名やメッセージを訴求し、エンゲージメントを構築・強化することができる。すでに、NBAチームのPortland Trail Blazersや全米オープンテニスなど、世界中のスポーツ大会やスポーツ団体と協業を実現しており、NBAの事例では、一試合あたり2000枚以上の写真が撮影されたという。
<Payment and FinTech部門>
CNote(カリフォルニア州オークランド):預金者と社会に優しい、新しい銀行の形
2.5%の高金利を実現する新しい預金サービス「CNote」。少額から預金が可能(下限なし)で、預金は100%、地域の再開発や社会的弱者の保護など地域に根差した活動を展開するCDFI(Community Development Financial Institution:地域開発金融機関)を投資先として運用され、そこから得られた収益が、2.5%という高金利として預金者に還元される仕組みとなっている。消費者のメリットとソーシャルグッドを両立する仕組みが評価された。
<Security and Privacy部門>
UnifyID(カリフォルニア州サンフランシスコ):パスワードなしで個人認証を実現
従来、WebサイトやIoTの閲覧・利用には、ID・パスワードの入力や、顔・指紋・網膜認証といった個人認証が必要不可欠だった。UnifyIDはこれを脱し、ユーザーのビヘイビア(行動)によって個人を認証する方法を提案する。具体的には、GPSや加速度計、ジャイロスコープ、磁力計、気圧計、環境光、Wi-FiやBluetoothなどを使ってユーザーの行動データを収集、機械学習によってユーザーのデータベースを構築し、99.999%の正確性で個人を特定することが可能だという。
<Entertainment and Content部門>
Laugh.ly(カリフォルニア州サンフランシスコ):パーソナライズできるコメディ専門ラジオアプリ
700人にのぼるコメディアンの番組が登録されている、コメディ専門のインターネットラジオアプリ「Laugh.ly」。2016年7月にローンチして以来、視聴者はすでに20万人に達しているという。有名コメディアンから、新進気鋭のコメディアンまで幅広いラインアップを揃え、ベーシックコースではすべて無料で聴くことができる。
機械学習によって、ユーザーごとに最適な番組をキュレーションし、レコメンドしてくれる。ビジネスモデルは、広告収入およびサブスクリプション(月額課金。広告を非表示にすることができるプレミアムコース)。
<Augmented and Virtual Reality部門>
Lampix(カリフォルニア州サンフランシスコ):
「Lampix」は、ソフトウェアとハードウェア、そしてクラウドプラットフォームからなる“スマートサーフェスAR技術”を用いた新しい体験を提供している。
机や壁といったあらゆるものの表面を“スマート”に変えるというもので、AR技術を使って物体の表面に画像を投影するだけでなく、そこに置かれた立体物を認識し、操作を連動させることができるという。例えば机をキーボードにしたり、テーブルゲームを楽しむことなどが可能だ。