『湯を沸かすほどの熱い愛』中野監督に聞く 「映画学校の3年間が人生の分岐点」(ゲスト:中野量太さん)【前編】

中野さんにとって『湯を沸かすほどの熱い愛』は「重い喜劇」

中村:配役が決まる前から?

中野:決まる前からです。そのへんもバッチリ当たったというか。彼女自身も読んで、「これはやりたいし、感覚が近い」と思ってくれたみたいです。

澤本:失礼な言い方をすると、規模的なことでは宮沢りえ主演という映画じゃないですよね。それなのに、宮沢りえ主演はすごいと思って。つまり、宮沢さんが脚本を相当気に入ったということですよね?

中野:そうだと思います。この映画のスタートは、僕の前の自主映画を評価していただいたプロデューサーから「中野くん、オリジナルでやろうよ」と言われて、何とかオリジナルで勝負する脚本を書きあげて。そのときは本当に脚本しかなかったんです。果たして、この脚本をどうしようか、というところからはじまりました。

普通は新人のオリジナルなんて商業映画にはなかなかなりません。それでも頑張ろうぐらいの予算だったと思うんです。お母さん役を誰にしようか?となったときに候補は色々いましたが、宮沢さんいってみようかと。半分ダメ元でいったら、受けてくれたんです。そこからこの企画はさらに走りだしたというか。

宮沢さんが出てくれたから多少は予算が上がったと言っても、新人のオリジナル企画なので、大手とは比べものにならない。たぶん、宮沢さんが来てくれたことで、他の俳優さんも信用して、来てくれたんだと思います。この俳優陣だとすごい規模の映画に見えますが、想像よりもお金はかけられなかったというのが実際のところです。

権八:オダギリジョーさん、松坂桃李さんも出ていて大きな映画に見えますよね。この中で唯一、僕だけ見てなくて、ぜひ見たいと思ってるんですけど。

澤本:あらすじを言っていい範囲でほのめかしておかないと、聞いてる人は何もわからないかもしれませんね。

中野:「幸の湯」という銭湯を営む家族の話です。家族はお母さん、お父さん、高校生の娘の3人だったんですが、お父さんが1年前に女をつくって家出してしまい、銭湯を営めなくなって。1年間銭湯を休んで、娘とお母さんが2人で懸命に生きていましたが、お母さんが病気を患って、余命が2、3カ月しかないと。娘はじつは学校でいじめられていて、お母さんとしてはそのまま置いてはいけない。お母さんは落ち込むんですけど、この2カ月で娘のために何ができるのかを考えて、ある行動を起こすという話です。

権八:あらすじを聞いてるだけで泣きそうになる(笑)。

中野:でも、たぶん想像と違うと思います。

澤本:そう、ツイストがあって、こう来るかというのがいっぱいあって。

中村:会う人会う人が宮沢りえさん演じる主人公・双葉の思いがけないようでいて正しい行動に気づかされていく、というところが圧巻というか。

澤本:この映画の予告編を見たとき、最初コメディ映画だと思ったんですよ。『湯を沸かすほどの熱い愛』というタイトルからもコメディ臭がするし、宮沢さんが銭湯を復活させる映画だと思ったんです。そう思って見てみたら、コメディとも言いづらい、全く違うものだったから。

中野:僕の中では「重い喜劇」だと思ってます。

中村:なぜ、銭湯という舞台を選んだんですか?

中野:だいたい昔から家族の繋がり、人との繋がりみたいなものをテーマに映画にしていて、銭湯が好きだったのと、不思議な場所だといつも思っていたので。知らない人同士が1つの湯船に入って、繋がって、しゃべったり、コミュニケーションをとったり。そういう人と人のコミュニケーションの場として面白いと思ったんです。僕がやろうとしているテーマにピッタリで、銭湯は家族経営が多いからいいなと思って。

次ページ 「銭湯を取材して知った意外な事実」へ続く

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