本間充 Mitsuru Honma
アビームコンサルティング
プロセス&テクノロジー ビジネスユニット CRM セクター ディレクター
宣伝会議の「【SXSW視察研修】Innovation Boot Camp in Texas」にて、SXSW 2017に参加しております。今回は、そのツアーの2回目のレポートをお送りします。
最初のレポートでは、「ICT Revolution」から「ICT Based」の世界に変わってきたと、私が感じたことを書きました。
他のセッションに参加しても、やはり同じようなことを感じました。今回のSXSWのセッションでは、「AI」と「VR」が特に多く出てきます。例えば、3月12日の「Virtual Crossroads: A Look at VR and Human Behavior」というセッションでは、「VRの登場は、ラジオ・テレビ・インターネットの登場と同じくらいに考えないといけない」と話されていました。また、3月16日の「The Next Four Years of AI」では、「AIという言葉が登場して25年経ち、いよいよ現実的になって、これからは多くの産業の労働者に影響を与えることになる」と議論されていました。
では、VRやAIは、私たちが携わるマーケティングに、どのような影響をもたらすのでしょうか。
VRとAIがマーケティング領域に及ぼす影響
まず、VRから考えます。そのヒントになるのが、3月16日の「Wrapped Up in the Big Screen: Amplifying Cinematic Film and TV with VR」というセッションでした。実は現在のVR/ARは多くの場合、自宅というよりは、特定の場所に行って体験することが多いそうです。例えば、有名なのはロサンゼルスにある、IMAX VRシアターです。
今は、操作方法を最初に聞かないと、私たちはVR/ARを操作できません。今回のSXSWでは、VRや360度映像を体験できるデモがいくつかありました。私も、火星探査をVRで体験できるNASAの「MARS 2030」を体験したのですが、時々ヘッドフォンをずらして説明員に聞かないと、操作方法がわかりませんでした。もちろんすごい出来で、本当に火星に行ったのではないかと思うくらい楽しい10分間なのですが。
マーケティング領域におけるVRの活用法としては、VRコンテンツへのプロダクトプレイスメントや、製品開発の擬似体験などが考えられます。まずは、インターネットが登場した時と同様に、VRに関する機材を購入して、マーケター自身が体験し、長いこと議論することがスタート地点となるでしょう。
一方、AIはどうでしょうか。AIは、コンピュータがすべてを行ってくれるように考えている人が多いかも知れませんが、基礎となるデータ分析と最適なモデルの設計には、実は人の力が必要です。こちらはマーケティングの組織で、ようやくデータ分析・科学的なマーケティングに取り組み始めたばかりであり、まだ先は長いように思えます。
テレビ広告のこれから、に関する自由な議論
アメリカらしいマーケティングのセッションにも参加してみました。3月13日の「SSaaS: Sport Sponsorship as a Service」です。アメリカでは、そのチャンネルの多さから、テレビの視聴者数が一般的には低いと言われています。
しかしスポーツに関しては、NFLのスーパーボウルのように視聴者数が多いものがあります。今までは、スポーツをテレビ中継し、その合間にテレビCMを差し込むことでマネタイズするモデルでした。セッションでは、このモデルを見直してみてはどうかという提案がなされていました。
例えば、広告を、今のような「差し込み型」ではなく、試合中継中の情報提供時に流すという考えや、「試合丸ごと」を中継するのではなく「○○選手のシーンだけ」といった部分編成もあり得るのか…といった議論がなされました。
このような自由な議論は、日本のテレビ広告にとっても参考になると思います。テレビは「死ぬ」わけではなく、テレビの広告もインターネットの広告も今後も残っていくはずで、それぞれの良さをさらに進化させるべきなのでしょうから。
そうそう、最後に映像の魅力について、3月16日の「Let’s Watch A Grown Man Eat Chicken For An Hour」というセッションが参考になるので、ご紹介します。実はこのセッション、「トロントでチキンを一羽食べる」という映像を見ながら進行する、面白いセッションでした。
その中で、日本のMiniature Spacesさんによる「Mini Food deep-fried chicken 春巻きの皮のお皿と鳥の唐揚げ」という動画が紹介されました。人はなぜ、動画を見たいのか。それは見たことがないものを見たいからだという結論なのですが、その一つのサンプルとして、この動画が紹介されました。こんなの広告主はつくれないじゃないかという話になりますが、じつはKFCが、Wieden+Kennedyと組んでつくった動画があります。
ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:視覚・聴覚への刺激によって脳が心地良さを感じる現象)動画のひとつで、極めて小さな声でささやくように話すことで、視聴者が思わず引きつけられる効果を出しています。
このようにSXSWでは、概念的なことから、実際のCMの話まで、実に多岐にわたるセッションが展開されていました。
最後にひとつ、日本人の活躍について。インタラクティブイノベーションアワードの「STUDENT INNOVATION」で、BionicMという東大のチームが受賞しました。東大で客員教授を務めている私としては、非常に感動するシーンに立ち会えたことも付け加えておきます。