ブランドプロデュースのヒットメーカー、秘訣は「外部人材を巻き込むチーム編成力」

『100万社のマーケティング』は、「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介する専門誌です。記事の一部は「アドタイ」でも紹介します。第10号(2017年2月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。


成熟化したと言われる環境下でも、新たな顧客を創造し、市場を創る経営トップがいます。そして、そこには瞬間的に売れるだけでなく、売れ続けるための全社を挙げた取り組み、さらには仕組み化があります。商品戦略、価格戦略、流通・販路戦略、プロモーション戦略に着目し、売れるためのアイデア、仕組みを解説・紹介していきます。

中村貞裕 Sadahiro Nakamura
トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長

1971年生まれ。慶応義塾大学卒業後、伊勢丹 を経て2001年にトランジットジェネラルオフィスを設立。アパレルブランドとのカフェやレストランなど約90店舗を運営。台湾発世界一のかき氷「ICE MONSTER」、NYで行列の大人気ペイストリーショップ「DOMINIQUE ANSEL BAKERY」や、モダンギリシャレストラン「THE APOLLO」などを日本に上陸させている。博多発祥、うどん居酒屋「二○加屋長介(にわかやちょうすけ)」を東京・中目黒に出店。その他、シェアオフィスやホテル、鉄道などのプロデュースを行い常に話題のスポットを生み出している。

 

カフェブームの火付け役となった「Sign」。
いまも外苑前のシンボル的存在だ。

「ドミニクアンセルベーカリー」「アイスモンスター」「マックスブレナー」といった、いま話題の飲食店。流行やグルメ情報にさほど興味がなかったとしても、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

こうした飲食店のプロデュースおよびオペレーションを手がけ、次々とヒットを生み出しているのが、トランジットジェネラルオフィス(トランジット)だ。近年はそのプロデュース領域を拡大し続けており、飲食店に留まらず、ホテルやリノベーションオフィス、新幹線、空手道場に至るまで、同社にかかれば、どんな空間づくりもお手のものだ。

同じ飲食店でも、向き合い方はさまざま。江崎グリコのキャラメル菓子専門店「Glico Caramel Kitchen」や、東急グルメフロントの新業態で二子玉川駅直結のカフェ「NICOTAMA DAYS CAFE」などは、コンセプト立案や各種クリエイティブディレクション、メニュー開発など、いわゆるプロデュースのみを行う。

一方で、「アイスモンスター」のような海外ブランドを国内でローンチするケースを含め、実際のオペレーションまで担う場合もある。また、イベントプロデュースやケータリングなどのサービスや、PR・セールスプロモーション、シェアオフィスを中心とした不動産業、人材紹介業なども手がける。いくつものビジネスモデルをひとつの会社に共存させているのも、同社の特徴だ。これが、空間づくりなら「何でもやる」「何でもできる」という、トランジットのあり方にもつながっている。

「いい!」と思ったらすぐに形にする

左上から時計まわりに「ドミニクアンセルベーカリー」、「アイスモンスター」、「グズマン・イー・ゴメズ」、「マックスブレナー」。海外ブランドの国内ローンチを次々と成功させている。

代表の中村貞裕氏は、大学卒業後、伊勢丹に入社。伝説のバイヤーと呼ばれる藤巻幸大氏のもとで学んだ経験を持つ。

転機は突然に訪れた。友人に連れられて、駒沢公園通り沿いにオープンしたカフェレストラン「Bowery Kitchen(バワリー・キッチン)」に足を運んだときのことだった。

中村氏は、当時を興奮気味に振り返る。

「『これ、いいな!自分もやりたい!』と直感的に、でも強く思いました。当時、外苑前にあるボロボロのビルの1階で父が飲食店を経営していたのですが、5階の倉庫を借りてカフェやろうとすぐに思い立ちました。それは現在、『アイスモンスター、いいな。やろう!』と決断する感覚とまったく同じ。1年後にやっても遅い、できるだけ早く形にしたいと思いました」。

そうして伊勢丹を辞めてオープンさせたのが、現在も外苑前のシンボル的存在となっているカフェ「Sign(サイン)」である。

バワリー・キッチンをきっかけに巻き起こったカフェブームの波に乗り、Signはみるみる話題に。話題を聞きつけた人からの引き合いで、続いて代官山店をオープンさせた。そこから不思議な縁がつながり、代官山店の顧客から「ホテルのリニューアル」の相談が持ちかけられる。これが、のちの複合施設「CLASKA(クラスカ)」となる。

「最初は、目黒にCLASKAという複合施設ができるので、1階にテナントとして入ってほしいという相談でした。当時、これ以上カフェを出店する余裕はなかったので断ったのですが、『クラシック』と『暮らす』をかけてCLASKAと名付けられたというコンセプトが面白いなと思って、『どう暮らすか』を提案する企画書を勝手につくって、担当者に見せたんです。それをすごく気に入ってもらえて。テナントとしてではなく、プロデュースと運営受託という形でCLASKAに携わることになりました」。

次ページ 「できないことを「できる」に変える」へ続く


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