年間数千万本も廃棄されるビニール傘
1950年代に初めて登場したビニール傘 は、コンビニや駅売店などでいつでもどこでも手に入る便利さが最大の強みだ。出先で急に雨に降られても、しのぐことができる。しかも値段はワンコインなので懐にやさしく、どこかに置き忘れても「また買えばいい」という気安さがある。
しかし価格が安い分、耐久性も低いのがビニール傘だ。強風に煽られればひとたまりもなく壊れる。使ってしばらく放っておくと、閉じてあったビニールの傘生地がくっつき開かない。そしてすぐに骨が錆びる。傘といえば使い捨てのビニール傘–今や、そうした価値観が社会にすっかり定着しているかのようだ。
このような、傘を大量に消費して捨てていくスタイルは、言うまでもなく、傘を大量生産して安価に供給するシステムがあって初めて成り立つ。供給側から見たビニール傘の実情を、山本氏は「国内で年間に消費されるビニール傘は数千万本に上ります。それらは海外でつくられ輸入されている。1本あたりの利益は非常にわずかなため、コストを引き下げるための生産競争は激しく、大量生産しなければ事業として成り立たないのです」 と話す。
年間数千万本のビニール傘が国内で消費されていることは、毎年ほぼ同じ数だけ捨てられていることを意味する。その主な素材は金属の骨組みとビニールの傘生地、プラスチックの柄だが、分別廃棄に向いたつくりにはなっていない。つまり大半のビニール傘は「燃えないゴミ」として、分別やリサイクルがされることなく、そのまま捨てられる運命にある。
傘市場のコモディティ化が進んだ結果、 ビニール傘がほとんどリサイクルされることもなく、年間数千万本も捨てられている。一方で社会の環境意識も高まりつつある。そうした中、どんな商品が日本の市場にとってベストなのか。山本氏は次のように考える。
「500円のビニール傘と同じ土俵に立つのは難しい。かといって従来のビジネスモデルのままでは、目先を追いかけ、市場の表層をなぞるばかりではないか。大量廃棄を生まない形で10年、20年先を見据えて事業を続けるには、傘という商品の本質を掘り下げる必要があると思いました」。
ビニール傘は安価な分、耐久性を犠牲にしており、しかもリサイクルを考慮したつくりにはなっていない。ならば、多少の強風では壊れない丈夫さを備え、リサイクルしやすい傘を適正な価格で売ることができれば、長持ちし、しかもリサイクルする分だけ廃棄を減らせる。しかも、従来のノーブランドではない自社ブランドの商品として世に出す。サエラが到達した傘の「本質」とは、つまりこのようなものとなる。
「Evereon」「+TIC」が体現する志
同社は2008年に傘の問屋および卸事業から撤退。これに先立つ形で2006年、同 社が発売したのが自社ブランドの傘「Evereon(エバーイオン)」だ。
使い捨てではなく、3~5年の耐久性を持たせるよう、傘の骨にFRP(繊維強化プラスチック)を使用。強風を受けても骨がよくしなり、壊れない。傘生地はビニールだが、破れてもユーザーが自分で取り替えられる。交換用の傘生地は別売りで手に入る。
そして2017年2月には、Evereonの特徴を発展させた新商品「+TIC(プラスチッ ク)」を発表。Evereonでは、軸部分に軽量で錆びにくいアルミニウムを使用しているが、+TICではその名のとおり、使用素材のオールプラスチック化を実現。秒速30メートルの風にも耐え、金属使用ゼロなので錆びない。さらに、廃棄時に素材ごとに分別する必要がないのでリサイクルもしやすい。
こうした機能面に加えて、外部人材を起用してプロダクトデザインやブランディングデザインを導入した点も+TICの特徴だ。
(続きは本誌をご覧ください)
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