2001年の広報会議で、何が語られていたのか?16年前の座談会を特別公開

コミュニケーションとは何か

—広報担当者はさまざまなステークホルダーとの関係性の中にあるため、「コミュニケーション」が最大の課題だと思いますが、いかがでしょうか。

鈴木:まず、この『広報会議』のコンセプトを考えるとするならば、「コミュニケーションとは何か」ということを模索し、答えを導き出していくことではないかと私は思っています。「コミュニケーション」という言葉は、印刷会社やテレビ局、通信会社、コンピューターメーカーに至るまで、社会のいろいろなところで日常的に使われているでしょう。だから、「コミュニケーションって一体何だろう」とわからなくなってしまう。

井之上:一般に「コミュニケーション」というと、経済活動とは関係ないものと誤解されがちですが、実はそうではないんですよ。コミュニケーションは、言葉、文字、それからイラストも含めた映像などで発していきますが、それらはすべて目的を達成する上で相手に伝えるための手段。ビジネスでは、こうした伝達手段はすべて大切なものですから、コミュニケーションとは密接に結びついていて切り離せないはずです。

鈴木:「企業の価値は企業が決める」というのは、ひとりよがりですね。よくよく考えてみれば企業の価値というのはお客さまであり、市場が決めるのです。したがって、企業価値よりもまず社会価値を優先して行動するというのが、コミュニケーション部門のポイント。「これは会社にとってはいいが、社会やお客さまにとってはどうか」と常に考えていなければなりません。

福田:日本では「パブリック・コミュニケーションズ」という言葉はさまざまな使い方がされていますが、中国では「公共関係」と訳されています。これは政府と国民の関係を意味するのではなく、主体者と社会全体との関係を指している。つまり、本来の「パブリック・リレーションズ」のことです。

井之上:公共関係とは言っても、実はセグメントされていますね。「パブリック・リレーションズ」の「パブリック」は、広義の意味で「一般社会」とみることができます。一般社会は、投資家や消費者、従業員といったいろいろなパブリックで構成されている。

そして情報発信者は、そのいろいろなパブリックに対し目的・必要に応じて情報を発信していくわけです。「インベスター・リレーションズ」、従業員との関係なら「エンプロイー・リレーションズ」、地域なら「コミュニティ・リレーションズ」、あるいは政府の場合は「ガバメント・リレーションズ」。これらを総じて、「パブリック・リレーションズ」となります。

—広報のセクションが企業の経営の根幹に近づいて、どの企業にとっても課題とされている「危機管理」の面からも、ますますトップとの関係が重要になってきたように感じます。

福田:アメリカの大手企業のトップに聞いて、感心したことがあるんです。彼らは、80%の時間をマスコミや政府といった対外的な仕事に使うそうですよ。社内のマネジメントについてはCOOに任せ、自らは外交に大変な時間を費やしている。情報社会における重要な経営のひとつということでしょうね。

鈴木:これだけの情報社会ですから、隠したことも必ず露呈されます。むしろ、危ないことほど積極的に情報開示してしまうことです。

具体的なケースを挙げると、1991年に証券会社による約120社への損失補填がスクープされました。その一社に当社も入っていたのですが、当時社長秘書だった私は、その日の夕方に社長を記者クラブへ連れていき、「会社の認識と社長の倫理との間にずれがあった。大変申し訳なかった」という会見を行ったのです。

社内では社長を出すことに反対の声もありましたが、ある新聞に「負け試合を拾った資生堂」と書かれました。逃げるから、いつまでも尾を引くのです。「とにかく事態を早く収束するためには、トップに語ってもらわなければ」と考えたのです。ピンチをチャンスに変えるというのも、広報戦略です。

井之上:今のお話は、アメリカ企業的な良い具体例ですね。日本では事故があったとき、広報ではなく弁護士主導型になります。これを変えていく必要があります。どうも弁護士は法律論が先行し、企業イメージへの影響などは考えず、社会倫理や社会感情、社会道徳が二の次になってしまいますから。

鈴木:弁護士は、不買運動が起こる可能性まで考えませんしね。

乃美:やはり前面には、あくまで広報が出るべきでしょう。弁護士の専門的な意見はもちろん聞きますが、それをコントロールして道順をつけるのは、広報の責任だと思います。

鈴木:社会倫理や社会観念に則った人がプロデューサーでなければならない、ということです。

福田:よく、何か事件が起きたときに「我々は知っていました」ということを表明しなさいと言いますね。「知らなかった」「聞いていない」ではなく「知っている」「検討している」、そして「後はこうします」という3つの要素を、きちんとタイミングを考えて出すことが大事です。

鈴木:平常時はそれほど差は出ませんが、危機に直面したときこそ、企業広報の真価と力量が際立ちます。

乃美:最近は、内部からの告発も多いと言われますね。

鈴木:ええ。今は、企業の不祥事の95%が内部告発からオープンになるそうです。

乃美:だから、隠せない。

鈴木:昔のように、全社員に対して企業ロイヤリティを求めることが難しくなってきたということでしょう。たとえ給料をもらっていても、「会社の悪は許しません」という健全な市民感情を、会社に対してきちんと持っていることはいいことだと感じますが。

次ページ 「「広報会議」で考えたいテーマ」へ続く

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