【前回コラム】「「本を書く」と「コピーを書く」の共通点」はこちら
いいコピーを書けるコピーライターは、いいコピーを選べるコピーライターだ、と本に書きました。で、その「選ぶチカラ」が必要なのは誰か。当然、コピーライターであり、クリエイティブディレクターなのですが、実は、もうひとりいます。それは「クライアント」です。
広告は、最終的にクライアントがOKを出して世に出るわけですから、どんなにいいと思うコピーを書いても、クライアントが「そうは思わない」なら、その広告は世に出ない。ある意味、「広告はクライアントのチョイスがすべて」とも言えるのです。
ボクにはここ数年、悩み続けていることがあります。それは、ついこないだ授賞者が発表された宣伝会議賞について。この賞にはグランプリ、眞木準賞、コピーゴールド、CMゴールド、コピーシルバー、それと協賛企業賞という賞があります。協賛企業賞は一次審査を通過したものの中から、その協賛企業の人が選びます。それ以外の賞は、コピーライターの審査員が選ぶ。
そこでね、いつも疑問に思うんですが、コピーライターの審査員が選んだコピーと協賛企業が選んだコピーが、ほとんど一致しない。それってどーなの?と思うのです。
何年か前の授賞式で、グランプリになったコピーの協賛企業の方が「我が社の課題に対して、じつに素晴らしいコピーを考えていただきありがとう」という趣旨のスピーチをされていた。でも、ちょっと待って!協賛企業賞では違うコピーを採用されていましたよね。それでいいんですか?っちゅう話です。
大前提として「コピーを選ぶチカラ」を見込まれているから審査員になっているわけですが、その審査員がいいと思うコピーと、クライアントがいいと思うコピーが違う、ズレてしまっている。ま、完全一致は無理だとしても、協賛企業賞としてクライアントが選んだコピーが、審査員が残したノミネートにも入っていてほしい、と思うのです。
このままでは、いくらコピーライターがプレゼンしても、クライアントには通らないってことになりません? これはなんとかせにゃイカンのではないか。
協賛企業賞のコピーも、せめて2次審査、3次審査を通過したものであってほしい。どっちが正しいのか。クライアントの目が正しいのか、コピーライターの目が歪んでいるのか。協賛企業が選んだコピーは、自己満足で終わってはいないか?ただ商品や機能を説明しただけではないか?ちゃんと消費者の気持ちに届くのか?そうやって悩んでいると、いいコピーって何よ?となる。
ボクは本の中で「クライアントの人にこそ、コピーライター養成講座に来てほしい」と書きました。その心は、競合プレゼンなどの「接待広告」に引っかからないでほしいからです(接待広告=クライアントがよろこびそうなことしか言っていない、消費者に効き目のない広告のことをボクは勝手にこう呼んでいます)。
広告会社は、自社の案を採用してほしいから、上手に接待してくることがある。どんな親(広告主)も自分の子ども(商品)をほめられるとうれしい。でもね、消費者に、生活者に、ユーザーに、本当に届き効果のあるコピーを選ぶ目を持っていてほしいのです。
コピーライターのオススメするコピーを黙ってOKしてほしい、と言っているのではありません。むしろ、「これは違う」と言ってもらっていいのです。
ボクが若造だった頃、とある企業の宣伝部には歴代「コワイ宣伝部長さん」がいらした。T馬さんやS木さん、W林さん。でも、その人たちからの厳しいダメ出しで、結果的にいい広告へと向かうことが多かった。正しい方向へディレクションしてくれていたのです。
担当者のワガママからのダメ出しは広告を腐らせますが、確かな目標を見据えたダメ出しは、広告を研ぎ澄ましてくれます。もちろん、制作者側でもいいコピーを作り、提案する能力を高める努力はしなければなりませんが、「制作者は優れたクライアントに鍛えられる」とも言えるのです。
クライアントが協賛企業賞に選んだコピーと、審査員が選んだ、2次審査、3次審査通過コピーとが一致してほしい。さらに、ノミネートや受賞作と一致したら美しい。
クライアントの目と、コピーライターである審査員の目が同じ方向を向いていたということだから。クライアントと制作者が同じ目標を持って、同じゴールを目指さないと、「広告」というビジネスがハッピーなものにならないと思うのです。
『最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法』
宣伝会議刊(2017年3月1日より全国書店・ネット書店にて発売)
見出しがすべて「広告コピーのチェック項目」になっています。
リンク先で見出しがすべて見れますので、気になる方はクリック!