フローレンス駒崎弘樹氏が語る「その記事に“意志”はあるか」

社会にうねりを起こしたい

――駒崎さんが記事を書く頻度は高いと思いますが、本業の傍らで記事を書いて情報を発信するというのは、やはり大変ですか。

それに関してはもうずっと悩んでいて、いまも四苦八苦しています(笑)。記事を書くときは普段の経営の仕事とは違う頭の使い方をする分、モードを切り替える必要があるし、何より集中して書く時間を捻出しないといけないんです。一つの記事を書くのに、どうしても1時間半とか2時間とかはかかってしまう。だから書くのが専門の方と比べて、ちょっと不利だなとか思っていますよ(笑)。

ただ定期的に書いていないと筆が重くなってしまうので、2~3日に1記事は書くように意識しています。僕と歳が近い東京都議会議員の音喜多駿さんは毎日記事を書いていて、書くことを日々のタスクとして取り組んでいる。書くことが専門ではない人にとっては、それはやはりすごいことですよね。

記事の質はもちろんですが、それと同じくらい数も大事だと思っています。数を積んでいると、ここぞというときにもきちんとしたことが書ける。それに発信すればするほど、多くの人の目に触れる分、記事に書かれたことが遠くまで届きやすいんです。時流を捉えることも大事で、僕の場合はこの時期にあれがあるからこれを書こうとか、ある程度タイムライン化して書くことを決めています。

――少し前までは、記事を書くプロである記者などがさまざまな問題を伝えていました。しかし実務として関わっている人のほうが、よりリアルな実情を知っている分、現場の思いが伝わる記事を書けるといった側面もあるのでしょうか。

それはありますよね。これまでは、メディアあるいは記者個人が関心を持ってくれることしか報道されなかったし、取材をして書いてもらっても、ある種のバイアスがかかって薄められて世間に伝わることも少なくなかった。でもいまは、僕ら自身が直接発信することができます。それと同時に、既存のメディアにも正しい情報を報道してもらえるよう、リレーのバトンをつなげていきたいと思っています。

まだまだその状況を活かしきれていませんが、社会課題を解決しようという人たちにとっても、いまはすごいチャンスの時代です。僕らには、目の前にいる人を左手で助けながら、右手では大声で叫ぶことが必要なんです。

――実務家から書き手が生まれているなかで、既存メディアの書き手はどのような役割を担うべきでしょうか。

やっぱりもっと連携したいですね。社会の課題を解決するという意味では、僕らが現場に最も近い位置から発信をするので、それを正しく広めてほしい。僕が書いた記事がいくらネットでバズっても、テレビや新聞を情報源にしている人には届きません。情報源をテレビや新聞にしている層と、ネットにしている層とでは断絶がありますからね。

昨年に大きな話題になった待機児童の問題で、最初の発信源の記事「保育園落ちた日本死ね!!!」は、はてなブログで書かれたものでしたよね。はてなブログの記事がいくらバズっても、ネット空間だけの嵐でおわってしまう。僕もその記事についての解説記事をYahoo!ニュース 個人で書きましたが、テレビや新聞などが伝えることで、社会に波及していきました。

そしてデモが起き、そのデモが改めてテレビや新聞で報じられることで世論が動いて、ついには国会に届いた。そうした状況をつくり上げるためには、既存のマスメディアの力は欠かせません。テレビや新聞で報じられることが、実はネット起点だったということも増えていますし、まずは記事を通じてネットで嵐を起こしたいですね。

最近は、若い記者が意志を持って「この問題をもっと広く知ってもらいたい」と言ってくれることがあるんです。僕はいま「ワンオペ育児」という言葉を広めようとしていて、これは、育児は夫婦2人でやるべきものなのに、(主に母親が)一人でやらされているという意味です。子育てする男性を指す「イクメン」という言葉が浸透したように、こうした言葉が広がることによって、世の中の認識や規範みたいなものが変わっていくと思うんです。

そうした僕の意志を感じとってくれた女性記者が「うちの新聞でもこの言葉を取り上げます。これは広めなきゃいけないので」と言ってくれ、いまや新聞の記事にも掲載されるようになった。そうした“意志”と“意志”とがつながって、社会にインパクトを与える大きなうねりをつくれたらいいですよね。

※本記事は、『編集会議』2017年春号に掲載されているものです。

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認定NPO法人フローレンス 代表理事
駒崎弘樹 氏

2005年より訪問型病児保育を開始。2010年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」を開始するなどして後に小規模認可保育所として制度化。2014年、障害児保育園ヘレンを開園。著書に『「社会を変える」を仕事にする』『働き方革命』など。

 

『編集会議』2017年春号は「記事論」「メディア×働き方」を総力特集
 

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