前回の原稿を執筆していた時は、ちょうどサンフランシスコで撮影をしていました。Nikeのスニーカーの代名詞とも言えるAIR MAXが、1987年に発売されたAIR MAX 1からちょうど今年で30週年を迎え、同時にNikeが7年の歳月をかけて開発した AIR VAPORMAXという新しいスニーカーの世界同時発売が3/26にあったので、それを記念したキャンペーンに向けた撮影でした。
が、なんと 新商品AIR VAPORMAXが全世界で即日完売となったため、作っていたメインCMはさてさてさて・・・ 公開できた時に裏話でも。
さて今回は、ポートランドの幸福論について、私見たっぷりに勝手に綴りたいと思います。そもそも幸福論を、独身のお前が語ってどうするという話なんですが、少しお付き合いください。
この街のほとんどのお店や事業は、そもそもそんなにガツガツしていません。
言ってしまえばそんなにヤル気がありません。もちろん企業・個人の価値観はそれぞれですが、土地・流通・人件費などを考慮すると、東京では 業務効率を改善して、営業時間を長くして、客単価を増やして、 店舗を拡大して・・・というのが基本的な思考回路だと思います。この街でそれを実践して商才に長けているのは、もしかしたら、オニツカタイガーの輸入業からスタートし今では世界最大のスポーツメーカーとなった私のクライアントだけかもしれません。(私の会社も、もともとはワイデンさんとケネディさんが35年前に固定電話ひとつしかない一室から始めた、街の零細広告会社でした。)
まずこの市には、60万人しかいません。この数字は2013年のものですが、いくらポートランドに移り住む人が増えていると言ってもせいぜい 65万人くらいでしょう。これは東京都足立区(68万人)、千葉県船橋市(63万人)、鹿児島県鹿児島市(60万人)と同じような規模です。分かりやすいような分かりにくいような例ですが、そもそも1000-2000万人規模の東京と比べることがナンセンスということを、前提にしないといけません。つまり街として、東京23区のように経済をガンガン回して、1000-2000万人の雇用を確保していくというゴールは当然ありません。
少しでも利益率をよくして、少しでも高利益・高収入を追求する、というのが東京の多数派の価値観だとすれば、この街の多数派の人たちは自分の半径3mくらいのことしか考えていません。目の前のお客さん、あとは自分の家族。他の州に、他の国に出店して・・・ということを考えれば働く時間が当然増えるわけで、それよりも17時には店じまいをして、18時には家族との時間を確保するという思考回路、これが彼らの幸福論なんです。
なので2014年に東京からこちらに移った当時の私は、毎日が些細なストレスの連続で、基本的に18時以降ミーティングは組めないわ、お店はすぐ閉まるわ、店員さんもチンタラしているわ・・・さすがにもっと働こうよと思っていましたが、そもそもゴールと価値観が違うんだなということに日を追うごとに気づきました。
結果的に、非効率・ローカル・高品質の価値観が育まれ、数年前までただの変わった地方都市だったのが、(2011年から続く人気TVドラマ”Portlandia”では、変人が住む街としてこっ酷くネタにされている)とても独創的で、アメリカで最も住みたい街として注目を集めるようになったのだと思っています。
これについては2001年の9.11同時多発テロでアメリカ人の価値観が変わったというのも多かれ少なかれ関係していると思いますが、そのあたりの仮説はまた別の回に。
p.s. ポートランドの幸福論と表裏一体の些細なストレスは、2年半経った今でもたまにあるものです。先日、会社近くのバーで残った仕事を片付けていて、仕事の電話があったので外で10分くらいしたあとにバーに戻ったら、「今日はまだ22時だけどお客さんいないしもう火を落としてキッチンクローズしたから」と。はぁ!?俺まだフード頼んでないんだけど・・・!So selfish! でたよ、アメリカ人・・・。
その日は無性に遅くまでやっている東京の居酒屋とラーメン屋が恋しくなりました。