写真がなぜ頭脳的になるのか?
菅付:僕は2010年代の写真の一番の特徴は、「写真がより頭脳的になってきていること」ではないかと思っています。頭脳的な写真は昔からあり、現代美術の写真は極めてコンセプチュアルですが、最近は商業写真の中でも特にファッション広告の写真がものすごく頭脳的になっています。
例えば、イネス&ヴィノードが撮ったファッションブランド・ディオールのキャンペーン写真は、有名な絵画であるマネの「草原の昼食」へのオマージュです。また別のカメラマンによるクリムトの絵を元ネタにした写真もありますし、過去の名作を再現するような写真も撮られています。
最近のファッション写真には、なぜあからさまな元ネタがあるのでしょう。上西さんはどう思いますか。
上西:そうですね、現代美術の文脈に近いのではないでしょうか。知識ゲームのように、元ネタを知っている人が楽しんでいますよね。ファッション業界はクライアントもハイブランドですし、顧客も文化層ですから、ある種のコミュニティーを形成しているのかなと思ったりします。
菅付:僕もその通りだと思います。ファッション写真は、広告を通じてある種の「知能テスト」をしているのです。誰もが知っている美人や有名人が出ていて一見するとわかりやすい美しい写真でも、その裏には何層ものレイヤーがあって、わかる人にしかわからない構造になっている。それが最近のラグジュアリーのファッション写真の撮り方なのです。
人気ラグジュアリーブランドのマーク ジェイコブスの去年のキャンペーンは、デヴィッド・シムズが撮りました。そのモデルは10代女子に人気のモデル、さらにマリリン・マンソンから日本の前衛ミュージシャン灰野敬二まで、わかる人にわかるキャスティングになっています。
さらに最近のルイ・ヴィトンのキャンペーンでは、3人のトップカメラマンを起用して、それぞれ違う被写体を撮り、アートディレクターがさまざまな組み合わせで広告をつくっています。また、このキャンペーンに影響を受けてか、カルバン・クラインも3人の若手カメラマンを起用して、若いミュージシャンからクリエーターなど、有名無名を交ぜたキャスティングをして、「誰これ?」「あ、あの人か」「この撮っている写真家は同世代じゃない?」みたいな、強力な同世代感、同時代感を演出してます。
上松:話題づくりと多様性が狙いですよね。ファッションも男性、女性、中間向けに分かれているなど、より多様になっていますし、多く人の心に響くためには、たくさんのテイストを用意した方がいいということではないでしょうか。
菅付:そうですよね。カルバン・クラインの広報は「もっと若い世代にアプローチするために、同世代の写真家に同世代を撮ってもらいたかった」と言っていました。ハッシュタグの「#mycalvins」というのがコピーで、インスタグラムなどSNSで拡散されることも期待して、大きなキャンペーンを仕掛けているわけですね。
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菅付雅信
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、出版からウェブ、広告、展覧会までを編集し、さまざまなプランニングを行う。書籍では朝日出版社「アイデアインク」シリーズ、「電通デザイントーク」シリーズなどを手掛ける。下北沢B&Bで「編集スパルタ塾」を開講中。多摩美術大学非常勤講師。著書に『はじめての編集』『中身化する社会』『物欲なき世界』『写真の新しい自由』など。
上松清志
月刊『コマーシャル・フォト』誌編集長。1991年玄光社入社。2015年8月から『コマーシャル・フォト』編集長を務める。受賞歴なし(幼稚園の頃から一切)。自動車免許なし(失効)。調理師免許あり。
原野守弘
経営戦略や事業戦略の立案から、製品開発、プロダクトデザイン、メディア企画、広告のクリエーティブディレクションまで、広範囲な分野で一流の実績を持っている。電通、ドリル、PARTYを経て、2012年11月、株式会社もりを設立、代表に就任。「OK Go: I Won’t Let You Down」「NTT Docomo: 森の木琴」「Honda. Great Journey.」「Pola Dots」「Menicon: Magic」などを手がける。TED: Ads Worth Spreading、MTV Video Music Awards、D&AD Yellow Pencil、カンヌ国際広告祭 金賞、One Show 金賞、Spikes Asia グランプリ、AdFest グランプリ、ACC グランプリ、TCC 金賞、ADC 金賞、広告電通賞 最優秀賞、グッドデザイン賞 金賞など、内外で受賞多数。D&AD会員、NY ADC会員。2013年 D&AD 審査委員長、カンヌ国際広告祭 Innovation部門 審査員、2012年 カンヌ国際広告祭 T&I部門 審査員、Spikes Asia審査委員長、グッドデザイン賞 審査員。大阪芸術大学 客員教授。英国Campaign誌の「The World’s Leading Independent Agencies 2014」にも選出された。
上西祐理
1987年生まれ。東京都出身。2010年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、同年電通入社。現在第5CRP局勤務。ポスター、ロゴ、パッケージなど単体の仕事から、総合的なブランディングやキャンペーンなど仕事は多岐にわたる。趣味は旅。32カ国達成。主な受賞歴:東京ADC賞、JAGDA新人賞、JAGDA賞、富山ポスタートリエンナーレ銀賞、NYADC金賞、D&AD金賞、ONESHOW銀賞、CANNES LIONS金賞、CANNES YOUNG LIONS金賞など。