強い作品世界を持つものは、VRでもオリジナルの物語を切り拓く
先と同じく、「Film Awards」のVR部門で技術表彰されたのは、Felix&Paulスタジオ制作のシルク・ド・ソレイユの「Dreams of “O”」(Director: Félix Lajeunesse、Paul Raphaël)。水上を舞台にした華麗なパフォーマンス作品として有名な「“O”(オー)」の水中版である。
視聴者は、周囲360度の水の中、仮装した10人ほどの演者に囲まれて水中円舞や演技を楽しむ。水中なのに呼吸できる感覚に不思議さを覚えながら、よく練られた豊かな演出に心奪われる10分はあっという間だった。
大型映像としては、NHKグループが取り組む8K VRがトレードショー会場に登場。8K映像に合わせて動く座席がついたドーム形状のスクリーンに、5.1chサウンドで上映した世界初の「8K:VRライド」だ。サザンオールスターズの「東京VICTORY」が流れるなか、東京の都市をワープするように旅する実験的な体験に、筆者も思わず座席をつかんだ。
素材の良さで魅せたのが、National GeographicによるAR展示だった。写真の中の世界がタブレットを通じて現実世界に沁み出してくる演出。アイデアはシンプルだが、本誌の持つストーリー性豊かな写真の世界が、タブレットをかざした瞬間、現実の空間に広がるかのようにみえる光景に、多くの体験者から歓声があがっていた。
これらの事例から筆者が感じたのは、たとえ舞台がVRという新しいものに置き変わっても、人々を笑顔にし、また魅了するのは、個々の作品が持つ揺るぎない世界観と、表現クオリティへのこだわりである、という点だ。「Hollywood Goes VR」というセッションでも、映画がシリーズ化されているような強い世界観を持つ作品のIP(Intellectual Property:作品の版権)のVRが、新しいオーディエンスを切り拓いていくだろうと強調されていた。