さまざまな形での映像への没入体験の可能性
VR、と一言で言っても、その体験の仕方にはすでにいくつかの形態が出現している。映像への没入感をいくつかの形態で来場者に紹介していたソニーの展示についても、最後に紹介したい。
「The WOW Factory」と名付けた会場は、廃倉庫を改装したスペースに、VRやARを中心にさまざまな形態の体験型デモが提示された。
「バイオハザード: ザ・ファイナル」の世界に入り込み、敵をシューティングするインタラクティブなアトラクションでは、触覚技術も導入した没入型の体験。またエンハンスゲームが展示していた「Rez Infinite + Synesthesia Suit」は、特製ボディスーツを着用し、PlayStation®VR対応ゲーム「Rez Infinite」の音楽・リズムや空間浮遊感と触覚との共感覚(シナスタジア)をもたらすシューティングゲーム。
この2つの展示に共通していたのは、全身でコンテンツの世界に入り込む体験によって、頭も身体もすべて一瞬で持っていかれるように錯覚する感覚だった。また、半球型のドームに映像を映し出し、椅子に座って、あるいはその中でエアロバイクを漕いでインタラクティブな体験を楽しむ「Music Visualizer & Cyber Gym」や、超短焦点プロジェクターで囲まれた部屋の中で複数人で映像への没入体験を楽しむ「Mixed Reality CAVE Experience」では、デバイスを装着せずに楽しめる体験も実験的に提供した。
どれもここでしか体験できない実験的な展示ではあったが、視聴覚だけでなく、触覚や身体感覚も含めた新しい楽しみ方の提示ができていたのではないだろうか。
ソニーでは「The WOW Factory」での各種展示に加え、ソニー・ミュージックの音楽アーティストによるパフォーマンスも行った。今年のグラミー賞を受賞したThe Chainsmokersとソニーが協力して制作した最新シングル『Paris』のVRミュージックビデオを、ライブ会場で初公開した。
ここでも、音楽作品の世界観をVRという新しい手段を用いてインタラクティブに表現する、という体験の拡張の可能性を示せたのではないだろうか。このVRミュージックビデオは、今後「PlayStation® Store」での配信が予定されている。
一時的な流行やマーケティングのツールだけに留まらず、「人々が感動するコンテンツ軸とは何か」という視点でいくつか紹介させていただいた。今後、VRやARが本格的なビジネスとしてテイクオフするためには、VRならではの話法の開発と最新技術の修得に加え、制作環境の整備、また視聴者を飽きさせない継続的なコンテンツ供給も重要となる。
そのためには、エンターテインメントとテクノロジーが混じりあうSXSWのような場で、さまざまなプレイヤーからの可能性の提示や課題の共有がなされる機会は大変有意義ではないだろうか。流れを待つのではなく、自分たちで流れをつくり、道を切り拓いていくことが、そこへの近道だろうと信じている。