音部大輔(資生堂ジャパン株式会社 執行役員)
マーケティングという仕事の具体的な業務をリストアップしていくと、いろいろなものが出てきます。新ブランド導入、新商品開発、デジタル・コミュニケーション開発、クリエイティブ開発、プリントやOOH開発、メディア計画立案、消費者プロモーション立案、価格の設定、パッケージデザイン開発、P/L管理、競争計画、チャネル政策立案、消費者理解など、その種類はとても多様です。
これらの様々な業務や作業、すべての領域に関わってくるのが「戦略」の考え方です。実際、成功しているブランドマネジャーたちはとても戦略的であることが多いですし、戦略的思考を重要な資質とみなしているブランド企業も少なくありません。戦略的になることで、運に頼る要素が減っていき、マーケティングの成功確率はぐっと高くなります。
今回は4回に分けて、3月10日に発売された拙著『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる –』(発行:宣伝会議)から、マーケティングを強くするための戦略の考え方を示してみようと思います。
前回は、戦略とは「目的達成のために資源利用の指針」であると定義付けました。戦略が必要になるのは目的と資源の限界があるときだからです。今回は、「目的達成のための資源利用の指針」があるとなにがいいのか、議論を進めていきましょう。
◆利点① 効率的に資源を運用することで、効果的に目的を達成することができる
定義に従えば、戦略を持つことで有限の資源を効率的に使えるようになり、効果的に目的を達成することができるようになります。そして、ただ達成するだけでなく、よりよく目的を達成できるかもしれません。
ここでいう「よりよく」とは、
- ・達成の度合いが設定された目的よりも大きい場合
- ・達成の度合いは設定された目的のとおりだが、投下した資源が予定よりも小さい場合
の2つが考えられます。
前者はシェア 10%を目指していたのに、12%を確保したケースを指します。ひょっとすると、事前に設定された目的が低すぎたか、不確定要素を読み間違えたか、資源が大きすぎたか、といった非効率が発生していたかもしれませんが、目的を大幅に達成したことに変わりありません。
後者は、半年後に10%のシェアを達成するはずが3ヶ月でできてしまったなどが考えられます。こちらも素晴らしい成果です。
あなたが資源の節約を気にしている場合、後者のほうをより喜ぶべきかもしれません。複数の活動が連続して企図されている場合、資源の温存は高い価値になることがあります。もともと使おうと考えていた資源を次の展開で使えるのですから、結果的に達成の総量が大きくなったのと同義です。
◆利点② 経験値を獲得できる
では、目的が達成されなかった場合はどうでしょう。目的が達成されなかったのであれば、それはすでに戦略が破綻しているのではないか。そうかもしれません。
とはいえ、「こうやったら失敗する」という知識は、失敗の経験を通して新しく獲得した資源だといえます。負け方ではなく勝ち方が分かるので、成功し、勝った場合の方が学習効果は高いですが、経験値は失敗からも得ることができます。
経験値を獲得できていれば、それは単なる失敗や敗北ではなく学習であるといえます。世の中には一回限りの勝負も少なくないですが、複数の局面が連続することも多いものです。2回戦目があるのならば、そこで失敗も敗北も挽回できるかもしれません。そのためには、経験値獲得の効果が高く、2回戦目に備えて資源の損耗を最小化した「いい負け」をする必要があります。戦略を明示しておくことは、この学習を助けてくれることでしょう。