◆利点③ 意思決定に役立つ
意識するかしないかは別にして、人生は意思決定の連続です。ビジネスにおいてはいうにおよばず、リンゴをひとつ買うにしても、それは意思決定です。同じ値段ならいいリンゴを買いたい、より少ない資源で買いたい。時間であれ資金であれ、手持ちの資源を効率よく使いたい。
そして、資源は常に有限です。その最たるものは時間で、いうまでもなく人生は「お一人様一回限り」で有限です。
いい戦略があることで、意思決定をしやすくなります。なにを達成すべき目的とし、どのような資源が入手可能なのか明示することができれば、優先順位は自ずと決まってくるからです。意思決定は難しくありません。戦略が意思決定の大義になり、根拠になり、説明に使えるからです。
◆利点④ 計画に一貫性と安定性が出る
戦略が大義として確立されていれば、意思決定をしやすくなるだけではなく、その戦略に基づいてなされた決定に固執しやすくなります。「固執」と聞いて否定的な印象を持たれるのであれば一貫性と言い換えてもいいでしょう。いうまでもなく、機能していない施策に頑迷に固執するのは正しいことではありません。
一方、合理的に説明できる戦略に一貫性をもって固執するのは正しいことです。資源が有限でありながら目的を達成しようとするとき、思いつきや感情に任せて方向転換することは資源の濫用につながります。
ギリギリの資源で高い目的を達成しようとするときに、資源の無駄使いは許されるものではありません。頻繁な方向転換、思いつきの朝令暮改は資源の濫用に直結します。特に想定外の事態が発生したときなどに起こすパニックの状態には頻繁な方向転換や混乱が発生しがちです。
戦略が大義として存在することで、感情的な方向転換や一時の思いつきによる朝令暮改を回避することができます。合理的に説明できない資源の浪費を回避できることは、目的達成の組織にとって有用であることでしょう。すべての関連する人や部署が、戦略のもとで一致団結できます。
これ以外にも、きちんと戦略を持つことの利点がいくつかあります。「目的」と「資源」の理解を進めていくことで、多くの利点が見えてくることでしょう。
次回は、目的の設定の仕方について考えていきます。
『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる -』
本書は、それぞれの読者が戦略を実践的な思考の道具として体得されることを目指すものです。著者が、P&G、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、資生堂、とマーケティング部門を指揮・育成しながら築いてきたものをベースにした戦略概念と、思考の道具としての使い方を丁寧に紐解きます。
はじめに/第1章:戦略を定義付ける/第2章:戦略の構成要素①「目的」を解釈する/第3章:戦略の構成要素②「資源」を解釈する/第4章:戦略の効用/第5章:戦略を組み立てる/第6章:戦略を管理する/第7章:戦略的に考える/第8章:「戦略」をより深く理解する/おわりに