ネットしかない世界って、ちょっと寂しくない?
吉田:さっき最古のSNSと言ったけれど、ラジオにしかできない役割ってあるんです。今、スマホしか持たないでひとり暮らしてる人いるよね?テレビがなくてもいいって。
椎木:私は大学に通っているのですが、一人暮らしをするのにテレビはいらないと思って買ってない学生は多いと思います。レンジ、冷蔵庫、ベッドとあとスマホがあれば生きていける、みたいな。
そういう場合、情報を取りに行く手段として一切テレビが選択肢に入らないんですよね。大事件が起きてもネットで騒いでるからそれで知れる。Twitterのトレンドに入って、あ、どっかで地震起きたなって。
吉田:そしたらニュースサイトに飛べばわかるもんね。だけど、寂しいと思うんだよね。ネットしかない環境って。
それでね、僕「Hint」っていうラジオを作ったんですよ。デザインするにあたり、ハイパーデザイナーのメチクロさんから「ラジオって何なんですか、どういう存在なんですか?」ってずっと聞かれてたんです。実際、半年くらいその話しかしていなかった。で、結論が“人の気配を発生させる装置”だったの。例えば一人の部屋に帰ってきた時、ラジオつけた途端寂しくなくなるでしょ。
別にはっきり“この人の声が聞きたい”ってわけじゃないんだけどね。あと、自分が持ってる曲がラジオ番組でかかると、嬉しくなるんだよね。
椎木:その感覚わかります!
吉田:あ、これはやっぱりわかるんだ。これが10代の椎木さんがわかってるなら、ラジオの存在って時代を経ても変わってないんですよ。
ラジオで曲をかけるのって、パーソナリティーがその曲をいいと思ってるとか、いろんな理由があるんです。だから1人でいても1人で聴いてるわけじゃない。これって人間にとって最大のごちそうなんじゃないかな。
椎木:確かに。
ラジオってなんというか、自分の脳味噌を見透かされた感があるんですよね。
そのとき欲している言葉や音楽がすっと耳に入ってきて、「わたしのために発してくれてるんじゃないのか?!」と思うときが多々あります(笑)。
吉田:それに、明確なアンサーじゃなくてヒントをくれることが多いでしょ。僕が作ったラジオが「Hint」って名前なのもそれが理由。
あとね、Hintって英訳すると「人の気配」なんですよ。360度スピーカーなのも、なんとなくここで鳴ってるとか、気配があったほうがいいと思ったから。リスニングポイントを決定しないほうがいいんだよね。
ところで、人間は人の話を聞くのが好きなのか嫌いなのか、どう思う?
椎木:うーん、どうだろう・・・。
吉田:突き詰めると、どうも人間は授業と上司の話は嫌いなんですよ。
椎木:(笑)。あー、いやですね。超いやです。
吉田:聞けって命令されて、リアクションをとらなきゃいけないのは、ほとんどの人がストレスに感じる。対して、ファミレスの隣の人の話って、めっちゃ聞きこんでしまったり。
人間って聞き流していい人の話って大好きなんです。
ラジオこそ、まさに聞き流していい人の話なんだよね。だから、ものすごくフィットするはずなんです。いい意味でビジョンなんてないでしょ?「私はラジオを使ってこれ伝えたい!!」とか、ラジオを使って革命起こそうとか、考えないでしょ?
椎木:そうですね。番組を介してコミュニティができあがって、成り立っていくのが一番の目的かな。
あとは、ラジオで新しいことをやっていきたいし、ラジオが古いっていう概念は変えたいな、って思ってます。
吉田:具体的にやりようないかな。10代の作家志望がいたら、マジで紹介してほしい(笑)。とにかくね、ラジオって、単にしゃべり手がそこにいるってことが1番重要。これくらいコストが低くないと逆にできないし、だからこそまだまだウケる手法が残っているだろうと思っています。
インタビュアー:河辺さや香