【前回のコラム】「日テレ・土屋敏男×TBS・角田陽一郎に聞いてみた「テレビは、オワコンなのか?」」はこちら
ACCが変化する先は?
—ACCはどう変わるのでしょうか?
土橋:これまでのACCは、CMを中心とした広告領域のプロフェッショナルが集う集団でした。しかし今、そのプロフェッショナルたちが持つクリエイティビティを発揮できる領域は膨大に広がっている。広告領域にとどまらず、日本の産業あるいは社会全体の課題に貢献し、いい影響を与えられる集団へと変革を行います。
—なぜ大きく変わろうとしているのでしょうか。
土橋:僕は広告の世界に20数年いますけれど、およそ20年前はさほど大きな変化がなかったんですよ。市場の変化は細かくあったけれど、構造や勝ちパターンは変わらなかった。ところがここ数年で、これまでにないような大きな変化が起きている。デジタルが台頭し、メディア環境が変わり、お客様の購買行動も大きく変化した。長らくCMは大きな影響力をもって企業の広告活動を担ってきましたが、現在はそれだけで宣伝活動を考えることはほぼありません。ACCの役割も、大きく変わらなければいけない時が来たということです。むしろ遅すぎたくらい!
嶋田:世の中の変化に対応するというのが、今回の変革の大きいテーマですね。もちろんCMの影響力はまだまだとても大きく、大事な要素ではありますが、それだけではない。僕は広告会社にいるので、お客様の商品やサービスを届ける術が本当に多岐にわたるようになったと感じています。すごく難しいのですが、裏を返せばやれることが何万通りにも増えた、おもしろくなったということ。我々はそこを企業やメディアの皆様と考えていきたい。ACCでも“変化をおもしろく”と捉えていきたいですね。
井上:これまでACC賞というのは、メディアと広告を掛け合わされたクリエイティビティの領域にフォーカスしてきたと思うんですが、今はありとあらゆる業界で新規事業を作り、収益構造を変え、新しい領域に入っていかなくてはならない。広告の分野だけではなく、全ビジネスのファンクションにクリエイティビティが求められているんですよね。
土橋:勝ちパターンがなくなっているからこそ、みんなで模索し、方法を一から積み上げている状態です。「メディアクリエイティブ部門」をつくるのも、人々のメディア接触が劇的に変わっていて、それに応じてメディアの方がさまざまな工夫を凝らしているから。
嶋田:勝ちパターン、本当にありませんよね。
井上:「戦略の時代の終わり」。結局いくら戦略をうまく描いても、最後にユーザーが「なんか気持ちよくない」と思えば使われないんですよね。ユーザーとどう対話して、どう届けていくかで最後が決まる時代になっている。ユーザーとの対話が得意な人々には、さまざまな活躍の場があるはずなんですよ。
土橋:僕が行っている床屋さんは田んぼの真ん中にあるんだけどね、田舎なもんで店の中を床屋の子どもが走り回ってるわけ。「どんな番組が好き?」って聞いたら、「テレビは観ない」と言うんですよ。「テレビはその時間まで待ってなきゃいけないじゃん」と。テレビにAmazon「Fire TV Stick」を挿して、テレビでYouTubeを見てるわけ。小学1年生が次々とユーチューバーの名前を挙げるんだもの。
嶋田:リアル(笑)。時間になったらテレビの前に座るんじゃなくて、自分たちが軸なんですよね。それは大きい変化。
井上:広告会社自身もすごく変わろうとしているのを感じます。広告をつくる過程というのは、エンドユーザーを深く理解して、彼らに届くコミュニケーションを考えるということ。それは企業が新商品を開発したり、事業価値の新しいモデルをつくる時にも活きるクリエイティブのリソースだと思います。
土橋:メディアの在り方や、これまでにない未来をつくるビッグアイデア。様々なチャレンジをACCが顕在化し、活性化し、クリエイティブの発展の手助けができたらということですね。