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もしボクが「新人コピーライター採用試験問題」を作るとしたら、どんな出題をするだろうと考えてみました。本の第3章「オリエンで仕入れる」で書き切れなかったことを出題します。それは「質問を考えること」です。
「中村の母親が福岡から上京するので、親孝行がしたい。どんなことをしたらいいでしょう?」というお題を出します。これに対して、「質問」をできるだけたくさん書いてもらう、という出題。
「親孝行がしたい」はクライアントである中村からのオリエンです。次にコピーライターがやることは、「はい、わかりました」と、即、奇抜なアイデアを考え始めることではありません。突飛なことを思いついて、笑わせる大喜利じゃないんだから。
最初にすることは「質問すること」です。脳みそフル回転で質問を考えることです。質問する目的は、これからアイデアを考えるための「条件」「制約」「ヒント」を引き出すためです。この「質問」をいかにたくさん思いつけるかどうかが大事なのです。
例えば、こんな質問とこんな答え。
- ○お母さんはおいくつですか?
(75歳です)→(ということは、あまり活動的なことはできないかな、と想像する) - ○お母さん、東京は初めてですか?
(初めてです)→(ということは、スカイツリーには登ったことないな、と想像する) - ○お母さん、高いところは好きですか?
(高所恐怖症です)→(ということは、スカイツリーはないか) - ○お母さんの趣味は?
(絵を描いたり書道をしたりです)→(ということは、美術館もいいか、と想像する) - ○お母さんはインドア派?アウトドア派?
(時々バスで写生旅行に行ったりしていますが、リウマチなので長い距離を歩くのはしんどいです)→(意外な質問から、リウマチだということがわかった。正座する場所はダメだろう、と想像する) - ○お母さんの好きなスポーツは?
(老人なのでスポーツはできません。でも、最近テレビでフィギュアスケート見るのが好きみたいです)→(相手に「そう言えば」と喋らせる質問がGOOD) - ○では、羽生結弦は好きですか?
(嫌いみたいです。宇野昌磨派です)→(アイスショーに行く場合、メンバーに注意が必要だ、と想像する。深掘りする質問もGOOD) - ○お母さんの好きな食べ物は?
(どちらかというと和食派です)→(和食の名店もいいか、と想像する) - ○お母さんの嫌いな食べ物は?
(強いて言えば南蛮漬け)→(それは外そう。好きなものを聞いたら、逆も聞いてみる) - ○親孝行にかける予算は?
(10万円までかな)→(これを聞いておかないと始まらない) - ○親孝行にかけられる日数は?
(3日休みを取れます)→(一泊旅行もアリだ、と想像する。条件は細かく聞いておく) - ○中村さんはクルマあります?
(はい)→(移動にクルマが使えることがわかる)
などなど。
もう、いくらでも出てきます。これらは「知りたいこと」でもあるのですが、相手から引き出したい情報を想定しているからたくさん質問ができる。こういう方向の案は可能か否かを想定した質問なのです。
クライアントのオリエンは、クライアントの言いたいことが一方的に語られることが多い。それだけじゃなくて、もっと深い場所に隠れている本音を聞き出して、考えるヒントにします。そのための「質問力」なのです。いい質問を思いつけない人に、いいコピーは思いつけません。
22年前、ボクは母と箱根の温泉に行きました。足が悪いので、部屋に風呂がついている旅館。食事も椅子に座れる部屋。移動はクルマ、音楽は歌謡曲。親孝行のための旅行でしたが、すぐ親子喧嘩になってしまう。
帰りに芦ノ湖スカイラインを走って、富士山が見える場所で記念写真を撮りました。すると母は「わー、綺麗やねー、大きいんやねー。富士山、初めて見たわー」と言うのです。東京に住んでいるボクは新幹線から富士山を何度も見たことはあった。でも母は、75年生きてきて初めてだったのです。質問力が足りませんでした。
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