三ツ矢サイダーの新CM中止から考える、「テレビCM」の社会的責任

「ホンモノらしさ」へのこだわりが求められる

テレビCMに対して消費者からの厳しい基準での指摘が増える時代に突入していることは明白で、テレビCMのリスクが上がっていることは間違いありません。

残念ながら、時計の針は巻き戻らないでしょうから、多額の費用を投下するテレビCMを無駄にしないために、より一層の事前チェックが重要な時代になっています。ここで、キーワードとなるのが「Authenticity(真実性)」だと思います。

Authenticityは、5年ぐらい前から海外の広告業界でよく議論されるようになったキーワードで「真実性」や「ホンモノであること」などと訳されています。

通常のテレビCMは、当然ながらファンタジーとして仮想の世界をつくり、撮影しています。企業が伝えたいことを15秒に詰め込まなければならないわけで、何もかも本物だけで撮影できるケースは少ないのは現実です。

今回の三ツ矢サイダーのCMにおいても、若手女優の芳根京子さんがトランペットを吹き、それを後ろから友達が驚かす、というシーンが仮想の世界として設定されました。ここでポイントとなるのが、撮影現場において、このシーンに問題提起をして、ブレーキをかけられなかったことだと言えます。これは前述のように未経験者にとっては危険性を察知するのが難しい行為だったのですが、経験者にとっては明白な問題だったというのがポイントになります。

もしかすると、Twitterで問題提起をしたようなトランペット奏者の方が撮影スタッフの中にいれば、「今回の表現は危ないのではないか」と問題提起ができたかもしれません。そもそも指摘されたような危険な行為であれば、撮影中に芳根京子さんがケガをしてしまう危険にさらされていたわけで、気がつける可能性もあったはずです。

その危険性が気付かれずに、無事に撮影が行われているのであれば、トランペットに安全対策が取られていたのかもしれませんし、芳根京子さんも後ろから脅かされることを最初から分かっていたため、上手く避けることができたのかもしれません。

そこがよりホンモノに近い状態であればあるほど、今回のリスクには気がつける可能性が上がっていたはずなのです。

最初からファンタジーの世界として撮影するのであれば、ファンタジーなりの表現があると思いますが、リアルを想像させるシーンを撮影するのであれば、やはりそこにある程度の「ホンモノらしさ」へのこだわりを見せることが必要なはずです。

企業視点でアピールしたいイメージを作ることだけにこだわるのではなく、顧客視点でCMを見た場合にどう見えるのか、という点にこだわることが大事になります。そこにこだわることで、今回のような火種に気付く確率を上げることは可能であると思います。

とはいえ、当然ながら今回のように期せずして騒動を起こしてしまうことが避けられない時代になっていることも事実です。騒動が発生してしまった場合、最終的にポイントになるのはその後の対応です。

単純に今回の騒動に懲りて、無難な表現に徹していくという選択肢もありますが、日清食品が「おバカ大学のCM」炎上後も、シリーズを継続するという判断をして、ファンから喝采を浴びたという成功事例も存在します。

今回のCM放送中止を残念がっているファンの声もあるようですし、問題提起をされた演奏経験者の方々が「さすがアサヒ飲料」と喜ぶような形で、ホンモノのトランペット奏者の方々の見識を活かしてシーンを撮影し直し、再開するという選択肢もあるはず。

騒動でショックを受けている広告関係者の方も多いと思いますが、そのショックを乗り越えて良い話になるような、今後の展開に期待したいです。

『顧客視点の企業戦略』
著:藤崎実 徳力基彦
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徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)
徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)

徳力基彦(とくりき・もとひこ)NTT等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。

徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)

徳力基彦(とくりき・もとひこ)NTT等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。

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