Consistent(一貫性がある)–方向性や整合性の認識
最後に出てくるのがConsistent(一貫性がある)です。
これは戦略の上位概念である会社のヴィジョンや上位組織の戦略、あるいは現状との一貫性を示しています。なぜ一貫性が重要なのか、議論を進めるにあたって、戦略の階層性について言及しておく必要があります。
多くの組織は階層構造を持っています。社長を中心とした取締役会が意思決定の機関を構成し、決定はそれぞれの組織が達成すべき目的として、社内に伝えられます。
たとえば、「世界中の消費者に安価な製品を提供する」というヴィジョンに基づいて、成長中の新市場に新しい工場を建設し、製造・流通コストを下げ、価格を低く抑えるという決定がなされたとします。この決定は、物流部門、製造部門、財務部門や人事部門、あるいは開発部門、営業部門、マーケティング部門などにも伝えられます。そして、「新しい工場を建設する」という会社の計画は、「新しい工場の建設を成功させる」という各部門が達成すべき目的となります。
物流部門と製造部門にとっての成功は、新工場が予定どおりの製品を予定どおりのタイミングや価格で取引先に納入できることを指します。人事部門にとっての成功は、操業開始の日に工場労働者が準備万端、能力も訓練も士気も高く整っていることを指します。製品開発部門にとっての成功は、新市場でニーズの高い製品群がこの新工場で滞りなく製造できることを指すでしょう。営業部門とマーケティング部門にとっては、新たな生産能力を最大限活用するために、新市場での売上伸長が担保されることを指します。
このように「新しい工場の建設を成功させる」という各部門共通の目的は、それぞれに解釈し直されていきます。そして、それぞれの目的に対し、各部門は計画を持ちます。それぞれの計画は、今度は各部門内の各部署や各チームの目的となっていきます。
上部組織の計画は下部組織の目的になり、さらに各部署、各チーム、ひいては各個人が達成すべき目的へと細分化されていくはずです。これがConsistent(一貫性がある)の意図です。上位組織の戦略や計画との一貫性、全社の方向性との関連性がある、という意味です。
こうすることで、それぞれの部門や部署の戦略は互いに補完的になるはずで、あっちの部門とこっちの部門がバラバラの目的を達成しようとしている事態は避けられることでしょう。
目的を持つ意義と、正しい目的の表し方をご理解いただけたでしょうか。
次回は、戦略立案のなかでももっともクリエイティブな作業、目的を再解釈するということについて、考えてみようと思います。
『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる -』
本書は、それぞれの読者が戦略を実践的な思考の道具として体得されることを目指すものです。著者が、P&G、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、資生堂、とマーケティング部門を指揮・育成しながら築いてきたものをベースにした戦略概念と、思考の道具としての使い方を丁寧に紐解きます。
はじめに/第1章:戦略を定義付ける/第2章:戦略の構成要素①「目的」を解釈する/第3章:戦略の構成要素②「資源」を解釈する/第4章:戦略の効用/第5章:戦略を組み立てる/第6章:戦略を管理する/第7章:戦略的に考える/第8章:「戦略」をより深く理解する/おわりに