社員の気持ちと同化できるか
──コピーライターとして、企業のブランディングや広報にどのような形で貢献していけると考えますか。
企業ブランディングでは「社内コミュニケーション」が課題と感じている企業が多いですね。コピーライターは、多数の企業の悩みを間近で聞くなど蓄積された経験があります。その一方で、私たちは生活者でもある。部外者としてまっさらな目で企業を見て、思ったことを申し上げる立場にあります。
ですから「ここはもったいない」とか、「こうなってくれたらいいのに」と、割と言いたいことを言わせてもらっています(笑)。この2つの目線で、全体を俯瞰してご相談に乗ることができるという点が強みかなと思っています。
コピーライターは言葉を軸としたコミュニケーションを考えることが仕事ですが、時には「こういうプロジェクトや場を持てばもっと楽しい」「社長と社員の距離が近くなる」など、具体的なコミュニケーションプランで問題を解決していくこともありますね。
ただし、そういうアイデアは、私の中からゼロベースで湧き出てくるわけではありません。まずステップとして大事なことは、その企業の社員の気持ちとできるだけ「同化」すること。社長をはじめ、なるべく多くの社員から話を聞きます。その上で、創業時の理念やその企業ならではの文化や気質といった、企業の”人柄”のようなものを抽出します。
さらに「将来こうなりたい」という未来の企業の理想像とミックスして、最も大切だと思う価値を基軸に、社内外に浸透させる方法を考えて、言葉に落とし込んでいきます。それが、資生堂の場合は「美」で、「世の中のためにこれからの美はどうあるべきか」という課題から始まりました。
「正しく」よりは「楽しく」
──そのような作業を経て確立した言葉やブランドが、実際に自走し浸透していくまでのプロセスに課題をお持ちの企業も多いですね。
そうですね。企業の方とお話ししていると、ご自身の思いを社員にうまく伝えられないと悩む方が多いです。社長は時に「孤独」なのだなあと想像します。
私が大正解を提示できるか分かりませんが、コピーもつくって終わりではありません。ある程度浸透するところまで色々な施策を考えながら伴走します。その際にイントラネットや社内報を使って、社長から全社員にメッセージをしっかり発信したり、社員が自発的にブランドについて考えて発表したりと、その後の昇華のプロセスを担うのも広報担当の方の仕事だと思います。さらにマス広告やウェブサイトの整備などに力を入れる流れも必要になってきます。
コピーライターは企業と一緒に、もっと企業を良くしたり、明るくしたりといった模索をすることはできます。その際、正しすぎたり真面目すぎたりするよりは、「楽しすぎる」と思うくらい”面白く”していく方がいいのかなと、最近は思いますね。そんなことを考えながら提案しています。
コピーライターの仕事はもはや、「コピーを考えること」に留まらなくなってきて、過渡期だなとも思います。ただ、仕事内容は変わっても、言葉の役割は変わりません。オザケン(小沢健二)の歌に「言葉は都市を変えてゆく」というフレーズがありますが、まさにそのとおり。言葉ひとつで物事はガラッと変わります。そのポテンシャルと力を信じて、いい言葉を生み出していきたいと思います。
「宣伝会議コピーライター養成講座」とは?
宣伝会議コピーライター養成講座は日本で最初のコピーライター養成機関として、1957年に開校。今年で60周年を迎える。数多くのトップクリエイターを育成し続け、のべ5万人を超える修了生を輩出。近年では、広告宣伝だけでなく、広報領域も含む、言葉を使ったコミュニケーションのスキルを高める場として、多くのビジネスパーソンが講座を利用している。