アメリカ陸軍と砂漠に行って、サメと泳いで、Nikeの名作スニーカーが生まれる。

T:あと、ミーティング。ミーティングが多いのはどこでも同じだと思うけど、特にInnovation Dept.は様々な職種のチームがいるからミーティングが多くて、デザインの作業ができるのが17時以降なんかになり得るんだよね。だからたまに、1日割いてInnovation Dept.の中でどうしたらミーティングを少なくできるかを話すための日を設けたりする。

S:それ気になるなぁ。どんな方法があるんですか?

T:そこで出たアイデアをとにかく3カ月試してみたりするんだけど、例えば「毎週水曜日はミーティングなし」とかね。そうすると水曜日にデザインの作業を集中してできるようになって、これは好評で今でも続いてる。しかも、ミーティングがないから会社に来なくても、どこでも仕事ができるし。あとは、ミーティングを部屋じゃなくて、ナイキの大学のような社内(Nike本社は通称、Campusと呼ばれている)を歩きながらウォーキングミーティングにしたこともあったね。(笑) 

S:歩きながらってそれすごいなぁ。(笑) でもとにかく新しいことを考えてやってみるってことですよね?

T:そうそう、うまくいかなかったら止めればいいんだから。 あとはやっぱり会社が、特にデザインのリーダーが、「クリエイティビティとは何か」をすごく考えている。今までの人生の中で遭遇しなかった環境に行けば、新しい自分が見えるんじゃないかとか・・・。だからデザイナーの部署は、元グリーンベレー(アメリカ陸軍特殊部隊)の人と、電気もない砂漠に行って、肉体的・精神的と両方をとことん追い込んで、そこで人生とは何かとか考えさせられるんだよね。

S:それ本当にやってるんですか? 行ったことあります?

T:うん、行ったことある。

S:やばいそれ。(驚!)

T:でもそれが今まで一番いい経験やった、本当に。自分の人生(生き甲斐)において最も大事なもの3つは何ですか?とか、そういう深いレベルまで掘り下げて考えさせられたよね。あとは仕事場で、あなただけしか貢献できないもの3つは何ですか?とかね。

S:うわー、それ、面白いな。僕がずっと影響を受け続けている高城剛さんが「移動距離とアイデアは比例する」ってずっと言っているんですけど、それと似てるかもしれない。基本的に同じところにとどまっているよりも、外に出て動いて、外は外でも渋谷で女子高生を見るより、例えばアフリカでライオン見た方が、受けるインスピレーションの量が全然違う・・・って趣旨の格言なんですけど、個人的にはそれ絶対正しいと信じているんですよね。(笑)

T:正しいと思う。自分の心地よいエリアから飛び出すってことだよね。1回、Innovation Dept.のデザインチームで、「あなたの恐いものは何ですか?」っていうアンケートをとったことがあって。例えば、高所恐怖症とか、海が怖いとか、いろいろあるやん。それで結局ハワイに行ってね・・・

S:バンジージャンプ?

T:サメと泳ぐ。

S:ウワーーーー!

T:ケージの中やけどね。(笑)でもそういう風にして、自分の恐怖と戦って、克服すると、また別の自分が生まれてくる。毎日の生活で安定しきった自分の世界から、いかにちょっとでもはみ出すか、広げていくかによって、新しいものが見えてくるし。あと、個人的には、「嫌い」という事は絶対なしにしてる。嫌いっていう時点で、自分でその分野を消してしまってるから。

S:食わず嫌いはダメってこと?

T:そうそう、そういうこと。しかも試してダメだったら、なんで嫌いなのかの理由を追求して考えるようにしているかな。

だから、Nikeはデザイナーのクリエイティビティをどう持続していくかをすごく考えてくれてるよね。 Campus(Nike本社の意)の中に、デザイナーが使えるスタジオみたいな施設があって、ミシンや3Dプリンター、レーザー、スクリーンプリンティング、染物などの設備があったり、毎週のように誰かがゲストスピーカーで来て講演してくれる。デザイナーがクリエイティブでいてくれるなら、会社は色々なモノや機会を提供しますよっていう思想があるよね。

S:社長のMark Parkerが元シューデザイナーだからっていうのもあるんでしょうね?

T:それは絶対あると思う。Mark Parkerがデザイン、イノベーションの重要性を理解しているし、それに使う投資も他社と比べて多いと思う。だからそれは本当に感謝しているよね。

S:今はもともと在籍してたInline Design Dept.(各スポーツ向けのデザイン部署)ではなく、Innovation Dept.に所属していますけど、そこで自分のアプローチや考え方について何か感じることはありますか?

T:部署が変わったからといって、デザインのアプローチや本質は変わってないかな。変わったといえば、以前よりもぶっ飛んだアイデア、コンセプトを重要視するようになった。(笑)

サッカーのInline Design Dept.にいた頃はサッカーだけの世界に生きていて、そのプロダクトを深く追求して頂点を目指す感じで、競合他社の動きなんかにも敏感だったけど、Innovation Dept.に移ってからは、トレンドに関わらずに未来のNikeのためにゼロから全く新しい革命を生み出すことを求められているから。 それには半端ない責任がついてくる反面、新しい試みの中での失敗もプロセスの一部と理解してもらっているし、リソースや時間を与えられているから、毎日めちゃくちゃ楽しい。

Tomさんもデザインに携わったNike Air VaporMax。世界中のスニーカーファンが在庫と新色を待っている。
Tomさんのインタビューを含めたNike Air VaporMaxの開発秘話動画 ‘BEHIND THE DESIGN’(英語)はこちらから。

私もNikeの広告クリエイティブの仕事に携わってもうかれこれ9年目になり、かなり近い距離で仕事をしていますが、知らないことばかりでした。最終的に店頭に並ぶシューズデザインに至るまでに、何年もの歳月がかかっていること、そしてNikeという会社がデザインをいかに大事にしてプロダクトを生み出しているかを改めて垣間見ることができました。

Tomさんの『情熱大陸』がいつか見たい・・・。

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鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)
鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)

1987年生まれ。慶應義塾大学大学院を卒業後、2011年、Wieden+Kennedy Tokyoに入社。2014年、Wieden+Kennedy Portland本社に移籍。同社で日本人として初めてNike Globalを担当する。主な仕事に、Nike Japan「Nike RUN Fwd:」、タイポグラフィーからインスパイアされた眼鏡ブランド「TYPE」の開発、Nike「The Switch」や「JUST DO IT.」グローバルキャンペーンなどがある。著書の電子書籍シティガイド「REAL PORTLAND #リアルポートランド」はAmazon.jpで「海外旅行」部門第5位に。2017年最新版を最近刊行。
HP: http://www.shinyakamata.com/

鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)

1987年生まれ。慶應義塾大学大学院を卒業後、2011年、Wieden+Kennedy Tokyoに入社。2014年、Wieden+Kennedy Portland本社に移籍。同社で日本人として初めてNike Globalを担当する。主な仕事に、Nike Japan「Nike RUN Fwd:」、タイポグラフィーからインスパイアされた眼鏡ブランド「TYPE」の開発、Nike「The Switch」や「JUST DO IT.」グローバルキャンペーンなどがある。著書の電子書籍シティガイド「REAL PORTLAND #リアルポートランド」はAmazon.jpで「海外旅行」部門第5位に。2017年最新版を最近刊行。
HP: http://www.shinyakamata.com/

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