未来の視点
さて、ここからが本題です。ヴィジョンなり、理念なり、自分のビジネスが本質的に顧客に何を提供しているかが手元にあります。未来を想像するためには、そこに書かれていることが究極的に達成された世界を考えてみればいいのです。
そのとき、顧客は間違いなく喜んでくれているはずです。その価値に対する対価も喜んで払っていることでしょう。 さあ、何が起きていますか。一人で想像することが難しければ、チームメンバーなどに、相談に乗ってもらってもいいでしょう。人と話し、自分とは違う見解が入ることでイマジネーションが膨らむことも多いものです。
それが洗剤を通して得られた「汚れのない衣類」なのであれば、生地に汚れがつきにくい加工を施した衣類の開発と普及はありうる未来の一つかもしれません。音楽の再生機器を通して得られた「音楽を携帯すること」なのであれば、特定の記録媒体に依存しない音楽の聴取もありうる未来の一つでしょう。
今までと違う未来が見えたでしょうか。「目的」の設定作業は、この魅力的な帰結点からスタートするといいです。もし、もう少し短期の「目的」を設定したいのであったとしても、この帰結点を描いておくことは将来に向けて論理的な整合性を確立するためにも役に立ちます。この帰結点が10年後であれば5年後にはちょうど中間くらいにいればいいのです。
目的が達成された帰結点に身を置いて、ここに到達する過程を振り返ってみましょう。未来から過去を振り返り、現在まで戻っていきます。目的達成の直前、1年前、2年前にはどのようなことがあったでしょう。理想的な状態にある5年後から見た4年前は、様々な現状に縛られた今年から見る来年とは、違う姿に見えるのではないでしょうか。我々が迎えるべきは、今年から見た来年ではなく、5年後から見た4年前であるはずです。
目的を明確にすると、長い道のりといくつもの障害が目の前にあることでしょう。たとえそれが非常に面倒で困難なことであったとしても、面倒で困難な存在を認識していることは重要です。問題はうまく書き記すことができればすでに半分は解けているのです。対策を考えられるし、対応もできることでしょう。
4回に分けて、戦略の定義、戦略の利点、いい目的の理解と目的設定について議論してきました。ここまでで明確になってきた目的を達成するにあたっては、所与の資源を最大活用することが必要となるでしょう。『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる -』で、その考え方を説明しています。ご興味がありましたら、ぜひご一読ください。
『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる -』
本書は、それぞれの読者が戦略を実践的な思考の道具として体得されることを目指すものです。著者が、P&G、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、資生堂、とマーケティング部門を指揮・育成しながら築いてきたものをベースにした戦略概念と、思考の道具としての使い方を丁寧に紐解きます。
はじめに/第1章:戦略を定義付ける/第2章:戦略の構成要素①「目的」を解釈する/第3章:戦略の構成要素②「資源」を解釈する/第4章:戦略の効用/第5章:戦略を組み立てる/第6章:戦略を管理する/第7章:戦略的に考える/第8章:「戦略」をより深く理解する/おわりに