—マネタイズがより多様化しているということですね。
そうですね。マネタイズのもう一つのトレンドとして言えるのは、メディアは自らのスキルを活用して、新たな収益源をつくろうとしているということです。“広告を掲載する場”としてではなく、良質なコンテンツをつくることこそが、メディア自らの本当の価値だと気づき始めたのです。
現代は企業は消費者と直接つながることができる時代であり、消費者に対してどのように情報を伝えるか、つまりどのようなコンテンツをつくり、どのように届けるかが問われています。
しかし多くの企業は、コンテンツをつくれる人材を有していません。それは、メディアのスキルが必要とされていることを意味しており、実際に多くのメディア企業がクリエイティブスタジオを持っています。
クリエイティブスタジオというのは、メディアのスキルを活かして、他社のためにコンテンツ制作を行う部隊です。テキストコンテンツだけでなく、写真やビデオなど、あらゆるコンテンツ制作において、メディアはスキルを発揮できます。つまり、これまでのコンテンツ制作によって培ってきたスキルこそがメディアとしての最大の価値の一つであり、“売りモノ”になるのです。
たとえば、「ニューヨーク・タイムズ」は、3年前にネイティブ広告制作部門である「T Brand Studio (Tブランドスタジオ)」をつくりました。ここでは、フィリップスやナイキ、デロイトなどの大手企業のコンテンツ制作を担っています。
新興メディアでも、「Quartz(クオーツ)」は成功しているメディアとしてよく名前が挙がりますが、ブランドのスポンサードコンテンツを制作することで収益を得ており、また「Narratively(ナラティブリー)」も、他のブランドに対してコンテンツを提供して、大きな収益を上げています。
—日本でもそのような動向は生まれていますが、まだまだ従来型の広告に依存しているメディアが少なくありません。
こうした新たな収益源が生まれている一方で、広告について言えば、バナーをはじめとするディスプレイ広告の価値が著しく低下しています。アメリカでは広告をブロックするアドブロックソフトも普及しており、とくに若い世代の多くは、アドブロックソフトをスマートフォンにインストールしています。
広告が頻繁に表示されることは、ユーザー体験を阻害するだけでなく、どのような個人情報が抜き取られ、どのように使われているのかがわからないことに対する読者のフラストレーションをためることにもなっています。
そうした読者の声を踏まえ、グーグルやアップルもアドブロックソフトを支持するような動きがあります。著しく読者体験を損ねる広告は取り下げるなど、読者に有害な広告に対しては厳しい姿勢をとっていくとしています。
これらはテクニカルな話ですが、いずれにしても広告を出す側であるメディア、あるいは広告主は、本来の広告の目的――認知の拡大や態度変容など――を果たすために、これまで以上に知的になる必要があるでしょう。そしてメディアに限って言えば、マネタイズのために、広告以外の収益源を探し続ける必要があります。
ただもちろんいくら広告での収益が衰退し、新たな収益源が生まれているからといって、メディアは広告を無視することはできません。だからこそ、ネイティブ広告をはじめ、コンテンツの制作力を活かした新たな手法を確立・強化していく必要があるのです。
—最後に、あなたは5年ほど前からアルゴリズムが記者に代わって記事を書くことを“Bionic Publish”と名付け、AI(人工知能)が記事を書く未来を予見していました。2017年現在、アメリカのメディアの間ではAIの活用はどのくらい普及しているのでしょうか。
AIの活用は、確実に広がってきていると言えます。とくに最近ニューヨークでは、スタートアップのメディア企業によるAIの活用をテーマとしたイベントが開催されることも増えています。
ストレートニュースを中心としたビジネス情報、天気予報の情報、スポーツの結果、交通情報など、文章としての構造の成り立ちや形式が決まっているもの、あるいはコンピューターが解釈し理解できるものであれば、アルゴリズムによって人が読むに耐える記事にすることができます。
アルゴリズムが記者に代わって記事を書くようになればなるほど、記者はストレートニュースの背景にあることやそれがもたらすインパクトなどを書くことに時間を割くことができます。
AIに関して、2017年になって最も激しい動きを見せているのは、「bot」の存在です。アマゾンやグーグル、またアップルも近々新たなbotサービスを展開するという話があります。未来のメディアでは、AIが担う役割がどんどん大きくなっていくのは間違いなく、それがどんな形になるのかは2017年に明らかになっていくでしょう。(5月9日、アメリカ・ニューヨーク現地で取材)