—あなたの教授だったニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院のジェレミー・キャプラン氏に昨日インタビューをし、彼はここ数年でアメリカにおいて成功しているメディアの一つとして「Narratively」の名前を挙げていました。まずは、「Narratively」を設立した背景について教えてください。
私自身はもともと「ニューヨーク・タイムズ」などで記事を書くジャーナリストをしていて、ジェレミーが担当している「起業家ジャーナリズム」のコースで勉強もしていました。ただ2008年のリーマン・ショックなどと時を同じくして、メディアの景気も急激に悪化し、これからのメディアはどうなっていくのかと疑問を抱くようになったんです。
そしてその未来を自分自身でつくろうと考えたのが、メディアを立ち上げることになった大きな理由です。クラウドファンディングを通じておよそ800人から5万ドル以上の資金を集め、「Narratively」をローンチしました。
「Narratively」では、1週間に1テーマを扱い、1日1つのストーリーを深く掘り下げた長文記事や動画記事を配信しています。また「Narratively」の特徴として言えるのは、多くのメディアでは記者が各地に足を運んで取材をしている一方、我々はすでに現地にいる人に書いてもらう形式をとっていることです。
我々のように、1つの記事の濃厚さをとことん追求するようなメディアは、これまでありませんでした。大きなメディアだと過度にニュース性が求められたり、逆にストーリーを丁寧に描きすぎてしまうと長すぎるという理由で記事になりません。しかし一方では確実に、そうした情報を求めている人がいると考えていました。
—SNSがある種の生活インフラにもなっていることで、より短い情報を摂取するスタイルが好まれる傾向にあるようにも思いますが、「Narratively」が長文記事にこだわる理由には、どんなことがありますか。また、深く堀り下げる記事をつくる際には、どのようなことを意識していますか。
よく言われることですが、現代はニュースという名の情報が氾濫していて、記事を読む側も読み流してひたすら“消費”をするだけになってしまっています。その結果、読んだ内容はほとんど記憶に残っておらず、あるいは触れるニュースも膨大なので、その記事を読んだことさえ忘れてしまいがちです。
いま、記事のつくり手に求められているのは、読み手の心や記憶に残る記事をつくることです。そうした記事をつくるためには、やはり物語をつくる必要があり、取材対象の人や事象自体をどれだけ深く掘り下げられるかが重要なのです。
我々の編集者が寄稿者に記事を書いてもらう際には、3つのクエスチョンを用意しています。一つは、そのストーリーはこれまでに語られたことがあるかということ。これは記事としての鮮度を測るものです。もう一つは、メインの登場人物は誰かということ。人について語る以上は、その主役となる人が強いキャラクターの持ち主でないといけません。
そして最後は、寄稿者である書き手自身が、その人あるいは事象についてストーリーを語るのに適した人であるかどうかということです。寄稿者には、「ニューヨーク・タイムズ」のような大きなメディアで書いているプロフェッショナルな人もいれば、まだ小さなメディアでしか書いたことのないアマチュアの書き手もいます。
まだ名が知られていない書き手をどのようにして発掘しているかというと、読者から書き手になるパターンが多いんです。あるいは、この取材のように他のメディアに取り上げてもらうことで「Narratively」を知り、書きたいと名乗りを上げてくる方も多くいます。
いずれにしても、我々のメディアとしてのオリジナリティ、またメディアの運営に情熱をかけていることが多くの人に伝わっている結果だとも思っています。