コトバがない広告って、つまんなくないですか?福部明浩×小杉幸一×尾上永晃×福里真一【前編】

【前回】「写真はますます頭脳的になる!電通デザイントーク【後編】」はこちら

電通デザイントークでは、東京コピーライターズクラブ(TCC)による『コピー年鑑2016』発刊を記念したイベントを開催。catch の福部明浩さんは、大塚製薬カロリーメイトの「見せてやれ、底力。」などヒット作を連発しているコピーライター。博報堂の小杉幸一さんはレディー・ガガを起用した資生堂などの話題作のほか、『コピー年鑑2016』のアートディレクションを担当したアートディレクター。そして電通からは、日清食品「10分どん兵衛」や「こち亀40周年&終了キャンペーン」が話題になり、昨年TCC新人賞を受賞した尾上永晃さん。司会は年鑑の編集委員長を務めた、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズなどで知られるワンスカイの福里真一さん。職種もバラバラの4人が「コトバのもつ力」について語り合った。

コピーで大事なのは、文より文脈?

福里真一さん
ワンスカイ CMプランナー/コピーライター。1968年鎌倉生まれ92年電通入社。2001年からワンスカイ所属。今までに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、アフラック「ブラックスワン」、フロムエー「パン田くん」、ゆうパック「バカまじめな男」、デレステ「新人アイドル中居さん」など。著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)など。『コピー年鑑2016』編集委員長。

福里:今日はTCCの『コピー年鑑』刊行記念トークイベントになります。タイトルは思い切って、「コトバがない広告って、つまんなくないですか?」としてみました。当然、反論もあるかと思うのですが、私個人は、コトバが何にもないと、どうも自分の人生と関係ある感じがしなくてつまらない。それに、コトバというのは、とても便利で、広告にもコトバが付いていることで、後から思い出すことができたり、人に語ったり、話題にしたりすることができると考えています。

というわけで、まずは、福部さん、最近印象に残った広告の「コトバ」はありますか?

福部明浩さん
1976年兵庫県出身。98年博報堂入社。2013年独立し、catchを設立。主な仕事に、カロリーメイト「とどけ、熱量。」「見せてやれ、底力。」「それは、小さな栄養士。」、ビタミン炭酸MATCH「青春がないのも、青春だ。」、グルメな卵きよら「きよらのお布団をかけてください。」、クラシエHIMAWARI「青いヒマワリ」、EDWINジャージーズ、ゾエティス「血ぃ吸うたろか〜」「かい〜の」など。著作に、『いちにちおもちゃ』など絵本数冊。中国、韓国でも翻訳され発売中。

福部:元SMAPの中居さんを起用したキリン氷結のポスター「言わせとけ。」ですね。「前へ。」とか「よろしく自分。」とか、複数のコピーがあるシリーズでしたが、中でも「言わせとけ。」が抜群に素晴らしい。

今の時代、何をやるにしても周囲からいろいろと言われてしまうじゃないですか。その時に、「言わせとけ。」と言い切るすがすがしさ。たった5文字ですけど、時代を救っている言葉だなと感じました。時代が偏っているときって、こうしたカウンターパンチみたいなコピーが効くんですよね。

最近はコピーライターと名乗る若手が減っていると聞きました。博報堂でも、コミュニケーションデザインの領域に人気が集まっているようです。ただ、このコピーの話とも通じますが、時代が偏っているのであれば、その反対側に「おいしい場所」があるはず。今こそコピーライターをどんどん名乗った方がいいんじゃないでしょうか。そして「コピー年鑑」をこれ見よがしにデスクに置いて、自分はコピーライターです、という広告塔にしてはどうでしょう(笑)。

福里:昔、シンガタの佐々木宏さんが電通でクリエーティブに転局したばかりで仕事が全然なかったときに、社内の自分のデスクに自信のあるコピーを「誰か見てくれ」って、これ見よがしに貼っていたらしいです。そこを当時、電通のクリエーティブディレクター(CD)だった大島征夫さんがたまたま通りかかって、ある日、突然仕事をくれたと聞いたことがあります。なかなか普通の日本人の感覚だと恥ずかしくてできないことですが(笑)、まずは自分のやりたいことをアピールするというのは大事かもしれませんね。

福部:ただ自分がCDになってみると、コピーライターだけしかやっていない人は「発想が硬い」というか、正直なところ使いづらいなという感じはしています。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが「いいコピーライターは文ではなく、文脈をつくる人だ」と言っていました。まさにその通りだと思います。

そこで僕は、現代における理想的なコピーライターは「電通の尾上さんのことだ」と思っていて、今日の会に誘われたときにも「ぜひ、参加したい!」と答えました。

尾上:あ、ありがとうございます…。実は、僕の師匠は岸勇希さんなので、どちらかといえばコミュニケーションデザイン側の人間です。ただ、岸さんの下に配属されたとき、岸さんから最初に言われたのは、「広告はコピーが大事だから、コピー年鑑を1960年代からさかのぼって、その時代に何があったのか、時代背景と照らし合わせながらコピーを写経するように」ということでした。

尾上永晃さん
電通CDCプランナー/イラストレーター。2009年電通入社組。デジタルを中心とした臨機応変なコミュニケーション設計を得意としている。最近の主な仕事は、集英社「こち亀40周年&終了キャンペーン」、トヨタ「エスティマ Sense of Wonder」、キリン「GREEN NAME」など一連、日清どん兵衛「10分どん兵衛謝罪広告」「どんばれ屋閉店」など一連、日清食品「イタリア人が認めなかったパスタ」、イラスト「カンヌからの絵はがき」など。カンヌ、TCC新人賞、WEBグランプリなど国内外で受賞。尊敬するアーティストは秋本治氏。

文脈が大事というのも、まさにおっしゃる通りだと思います。商品についてネット上でコミュニケーションすると、そのフォロワーたちと延々と付き合っていかなければいけませんから、その商品がどんな性格なのか考えなければいけません。ぶれたらいけませんから。

そこで僕は商品を学校のクラスの中に居たキャラに置き換えるようにしています。例えば、コカ・コーラくんは「明るいクラスの人気者」なので、競合商品は「シニカルで人気があるひねくれ者」みたいに設定したり。そうすると、言うことや行うこと全部に芯が通っているように見えてきます。

福部:商品をキャラクター化することで、文脈に乗るということですね。

福里:文よりも文脈というのは、コピーライターの技を発揮して凝った文をつくるというよりも、受け手が受け入れやすいコトバを使うといったイメージでしょうか。

福部:そうだと思います。僕が担当している大塚食品「ビタミン炭酸 MATCH」も、コカ・コーラや三ツ矢サイダーといった100年を超えるビッグブランドとどう戦っていくかを考えて、とにかく高校生のナンバーワンの炭酸になろうと決めました。

最初のころは「青春と言わずに、青春を描く」のがコピーライターの仕事だと思って、青春という言葉をかたくなに封印していました。ただ、あるとき青春を描くなら、青春って言った方がコミュニケーションのスピードが速まるよねと思い直して、「青春ほどの難問はない」という三角関係をテーマにしたCMを作りました。その後のコピーも、青春というワードを2回入れている「青春がないのも、青春だ。」です。

福里:「青春がないのも、青春だ。」は、文脈にもはまっているとは思うんですが、文としてもうまいコピーですよね。こういうの、尾上さんから見たら、やっぱり鼻に付きますか?

尾上:何でそんなイヤなヤツ風に(笑)。すごく好きなコピーです。言葉自体、みんな言いたくなる感じがしますよね。

福里:僕が福部さんに聞いてみたいのは、カロリーメイトのキャッチフレーズが「とどけ、熱量。」から、「見せてやれ、底力。」に変わりましたよね。そこには、どんな意図があったんでしょうか。「とどけ、熱量。」は、すごくうまいコピーですよね。一方で「見せてやれ、底力。」は、わりと素直な言葉だと思うんです。

福部:「とどけ、熱量。」は、カロリーメイトの商品コピーとしては、完成品だと思っています。ただ、商品の視点が強すぎるかなとも思っていました。そこで、少し受け手側の言葉に変換した方がいいかなと考えて生まれたのが「見せてやれ、底力。」です。長距離ランナーの中には、この言葉を心の呪文として唱えながら走っている人たちもいるらしいです。

福里:たしかに、心の中で「とどけ、熱量。」とは言わないですね。それも、みんなが言いたくなるかどうかという視点なんですね。

福部:そうですね、広告の受け手が「言うか」「言わないか」は重要かもしれないですよね。このコピーを考えた背景には、ゼロカロリーブームがあります。カロリーメイトは「カロリー」という単語が名前に入っている以上、その文脈には乗れないわけで、違う文脈に置き換えて勝負した方がいいと思ったんです。

次ページ 「拡散していくコトバを見つける方法」へ続く

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