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コピーで大事なのは、文より文脈?
福里:今日はTCCの『コピー年鑑』刊行記念トークイベントになります。タイトルは思い切って、「コトバがない広告って、つまんなくないですか?」としてみました。当然、反論もあるかと思うのですが、私個人は、コトバが何にもないと、どうも自分の人生と関係ある感じがしなくてつまらない。それに、コトバというのは、とても便利で、広告にもコトバが付いていることで、後から思い出すことができたり、人に語ったり、話題にしたりすることができると考えています。
というわけで、まずは、福部さん、最近印象に残った広告の「コトバ」はありますか?
福部:元SMAPの中居さんを起用したキリン氷結のポスター「言わせとけ。」ですね。「前へ。」とか「よろしく自分。」とか、複数のコピーがあるシリーズでしたが、中でも「言わせとけ。」が抜群に素晴らしい。
今の時代、何をやるにしても周囲からいろいろと言われてしまうじゃないですか。その時に、「言わせとけ。」と言い切るすがすがしさ。たった5文字ですけど、時代を救っている言葉だなと感じました。時代が偏っているときって、こうしたカウンターパンチみたいなコピーが効くんですよね。
最近はコピーライターと名乗る若手が減っていると聞きました。博報堂でも、コミュニケーションデザインの領域に人気が集まっているようです。ただ、このコピーの話とも通じますが、時代が偏っているのであれば、その反対側に「おいしい場所」があるはず。今こそコピーライターをどんどん名乗った方がいいんじゃないでしょうか。そして「コピー年鑑」をこれ見よがしにデスクに置いて、自分はコピーライターです、という広告塔にしてはどうでしょう(笑)。
福里:昔、シンガタの佐々木宏さんが電通でクリエーティブに転局したばかりで仕事が全然なかったときに、社内の自分のデスクに自信のあるコピーを「誰か見てくれ」って、これ見よがしに貼っていたらしいです。そこを当時、電通のクリエーティブディレクター(CD)だった大島征夫さんがたまたま通りかかって、ある日、突然仕事をくれたと聞いたことがあります。なかなか普通の日本人の感覚だと恥ずかしくてできないことですが(笑)、まずは自分のやりたいことをアピールするというのは大事かもしれませんね。
福部:ただ自分がCDになってみると、コピーライターだけしかやっていない人は「発想が硬い」というか、正直なところ使いづらいなという感じはしています。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが「いいコピーライターは文ではなく、文脈をつくる人だ」と言っていました。まさにその通りだと思います。
そこで僕は、現代における理想的なコピーライターは「電通の尾上さんのことだ」と思っていて、今日の会に誘われたときにも「ぜひ、参加したい!」と答えました。
尾上:あ、ありがとうございます…。実は、僕の師匠は岸勇希さんなので、どちらかといえばコミュニケーションデザイン側の人間です。ただ、岸さんの下に配属されたとき、岸さんから最初に言われたのは、「広告はコピーが大事だから、コピー年鑑を1960年代からさかのぼって、その時代に何があったのか、時代背景と照らし合わせながらコピーを写経するように」ということでした。
文脈が大事というのも、まさにおっしゃる通りだと思います。商品についてネット上でコミュニケーションすると、そのフォロワーたちと延々と付き合っていかなければいけませんから、その商品がどんな性格なのか考えなければいけません。ぶれたらいけませんから。
そこで僕は商品を学校のクラスの中に居たキャラに置き換えるようにしています。例えば、コカ・コーラくんは「明るいクラスの人気者」なので、競合商品は「シニカルで人気があるひねくれ者」みたいに設定したり。そうすると、言うことや行うこと全部に芯が通っているように見えてきます。
福部:商品をキャラクター化することで、文脈に乗るということですね。
福里:文よりも文脈というのは、コピーライターの技を発揮して凝った文をつくるというよりも、受け手が受け入れやすいコトバを使うといったイメージでしょうか。
福部:そうだと思います。僕が担当している大塚食品「ビタミン炭酸 MATCH」も、コカ・コーラや三ツ矢サイダーといった100年を超えるビッグブランドとどう戦っていくかを考えて、とにかく高校生のナンバーワンの炭酸になろうと決めました。
最初のころは「青春と言わずに、青春を描く」のがコピーライターの仕事だと思って、青春という言葉をかたくなに封印していました。ただ、あるとき青春を描くなら、青春って言った方がコミュニケーションのスピードが速まるよねと思い直して、「青春ほどの難問はない」という三角関係をテーマにしたCMを作りました。その後のコピーも、青春というワードを2回入れている「青春がないのも、青春だ。」です。
福里:「青春がないのも、青春だ。」は、文脈にもはまっているとは思うんですが、文としてもうまいコピーですよね。こういうの、尾上さんから見たら、やっぱり鼻に付きますか?
尾上:何でそんなイヤなヤツ風に(笑)。すごく好きなコピーです。言葉自体、みんな言いたくなる感じがしますよね。
福里:僕が福部さんに聞いてみたいのは、カロリーメイトのキャッチフレーズが「とどけ、熱量。」から、「見せてやれ、底力。」に変わりましたよね。そこには、どんな意図があったんでしょうか。「とどけ、熱量。」は、すごくうまいコピーですよね。一方で「見せてやれ、底力。」は、わりと素直な言葉だと思うんです。
福部:「とどけ、熱量。」は、カロリーメイトの商品コピーとしては、完成品だと思っています。ただ、商品の視点が強すぎるかなとも思っていました。そこで、少し受け手側の言葉に変換した方がいいかなと考えて生まれたのが「見せてやれ、底力。」です。長距離ランナーの中には、この言葉を心の呪文として唱えながら走っている人たちもいるらしいです。
福里:たしかに、心の中で「とどけ、熱量。」とは言わないですね。それも、みんなが言いたくなるかどうかという視点なんですね。
福部:そうですね、広告の受け手が「言うか」「言わないか」は重要かもしれないですよね。このコピーを考えた背景には、ゼロカロリーブームがあります。カロリーメイトは「カロリー」という単語が名前に入っている以上、その文脈には乗れないわけで、違う文脈に置き換えて勝負した方がいいと思ったんです。