拡散していくコトバを見つける方法
福里:最近、シンガタの佐々木宏さんは「デジタル系でいま一番面白いのは尾上くんです」と呪文のように唱えています。おそらく澤本嘉光さんあたりに吹き込まれたことをうのみにしているだけだろうとは思うんですけど(笑)。
そんな尾上さんは、「コトバ」をどんなふうに意識しながら、キャンペーンを手がけているんですか?
尾上:どん兵衛のデジタルキャンペーンは1年半ほど担当しています。いろいろやってみた結果、デジタル広告は、テクノロジーを駆使する方法に限らず、デジタル上で話題になりそうな要素をちょっと入れるくらいのやり方でもいいんじゃないかと思っています。
最近、自主提案で実現した渋谷駅ホームのどん兵衛店舗「どんばれ屋」の閉店広告も、全然デジタルじゃないけどデジタル上で話題になりました。もともと僕は小さなお店の閉店メッセージが好きで、写真に撮って集めているんです。例えば、近所のお店なんですが、35年間続けたお店が閉店するのにA4用紙1枚しか張ってなかったりして。35年分の思いをA4に詰め込むって、そのA4の熱量すごくないですか?
6年の間、愛されていたどんばれ屋でも同じことを実現したいと思って、「どんばれ屋店長」の思いは何だろうと考えた結果、出てきたのがこのコトバでした。
「お湯入れるだけでいいから楽だったのに…。ありがとうございました。」
閉店した店内にやかんと一緒にメッセージの紙を置いたら、どなたかが写真に撮って拡散してくださいまして、それがきっかけでいろんなメディアに取り上げられました。やかん代5000円で、5000万円分ぐらいの露出になりました。
福里:そうやって拡散していくコトバというのはどうやって、見つけていくんでしょうか。
尾上:みんなが言いたがっていることや言いそうなことを、こちら側が先に言うと拡散しやすいのではないかと思っています。これは10分どん兵衛やどんばれ屋を企画した時に気付き、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の終了キャンペーンの最後に公開したサイトでも、それを実行してみました。
年表をずらーっと眺めた最後に出てくる「そして前人未到の連載40周年。200巻へ。ご愛読ありがとうございました」というメッセージの後に、「待て!!」「まだ終わりじゃないぞ!!」と、両さんを登場させて、「こういうときだけ『最近読んでないけど好きだった』とか、『もっと続いて欲しかった』とか言いやがって。うれしいけど」と書きました。これが言われそうだなと思っていたことです。こち亀マニアなもんで(笑)。
そして最後は、大原部長に「ちょっとはしんみりせんか!」と怒られるという、お決まりのオチをつけました。うれしかったのは「これこそ『こち亀』らしい演出ですね。お疲れさまでした」といった、ポジティブなツイートが多かったことです。
世の中の反応はこうなるだろうと予測して、投げるコトバを決めていく。その時に、キャラクターが文脈から外れないようにする。そうすれば、そこからおのずとコトバが広がっていくのだなと、どん兵衛や「こち亀」の施策を通じて手応えを感じています。
福部:やっぱりコトバが効いていますよね。「どんばれ屋」のコピーも「楽だったのに」のあとに「ありがとうございました」と、入れるかどうかで受け手の印象が全然違ってくる。
感謝のコトバがあるから「意外と店長、いいやつかも」と思ってしまう。『こち亀』も同じで、最後に両さんの「うれしいけど」の一言があるのとないのでは、受け手の感じ方がまったく変わってきます。
小杉:僕は『こち亀』ファンで、ウェブサイトも全部見ました。実はドラマのアートディレクションしているくらいです。ファンとしては、すごくうれしかったですし、尾上さんは、作り手側というよりもファンの中にいて、そこからコトバを拾ってくるのが、すごくうまい人だなと思いました。
福里:尾上さんのお話を聞いていると、文脈を大事にしつつも、文も大事にされているように感じますね。それにしても、世の中の人がどう思うのか、どう受け取るのかを見つけるコツって、あるんですか?
尾上:シンプルな話ですが、Twitterを検索しています。すごく簡単な話ですが、右上の検索窓に商品名を入れて、みんながどんなふうに思っているのか、自分の考えとズレがないのか確かめます。
研究に近い感じかもしれません。仮説を立てて、実施して、反応を見て、また仮説を立てて、検証して…。そのうねりに合わせて精度を上げていくという。
後編に続く
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