【前回のコラム】「ACC賞が名称変更、なぜ賞の名前から「CM」が消えたのか」」はこちら
広告主とクリエイターの両サイドからジャッジ
—まずはACC賞の「ME部門」の特徴と、審査の軸について教えてください。
矢野:ACC賞の「マーケティング・エフェクティブネス(ME)」部門の特徴は、広告主とクリエイターが一緒になって「広告効果・成果」とは何かについてとことん議論することです。広告主サイドは、自分自身が事業の課題を抱えて広告活動をしているので、エントリーされたものに対して共感が持てるのです。「なるほどこの課題だからこういう手を打つのね」と唸らされるんです。
一方でクリエイターの審査委員から見ると、「効果はあったかもしれないけど、クリエイティブ的には新鮮味がないね」ということもあったり、逆に「成果は見えにくいけど、クリエイティブ的なジャンプがすごい」という意見があったり。それを聞いて初めて、お互いに理解できることがあります。さまざまな視点で審査できるのがME部門の特徴です。
今年も、これまでの審査方針を大きく変えることはありません。事業が抱える課題に対して、マーケティング戦略と、それに掛け合わせるクリエイティブの力でどのような成果を出しているのかを審査する。ACCは新しく「日本の産業を、クリエイティビティでアップデートする」という大きな取り組みを始めました。ME部門についても、マーケティングの手法論に走らず、改めて「マーケティング×クリエイティブ」を大事にしたいと。しっかりクリエイティブの新しさや良さを重視しながら、審査を進めていきたいと思っています。
それにしても「日本の産業を!」というのはすごいことですね。でも我々KDDIもそうなのですが、商品・サービスをテクノロジーで大きくジャンプさせることは難しいです。そんな時代にお客様の心を動かすかとなると、具体的なテクノロジーというより、それによる体験のレイヤーなのではないかと。そんな時にクリエイティビティは非常に大事だと思います。
—先ほどお話された「成果は見えにくいが、クリエイティブのジャンプがすごいもの」はどう評価されるのですか?
矢野:そこが難しいところで、成果をどう見ていくかは相談しながら検討しているところです。一次審査においてはエントリーシートと映像・音声素材で審査するのですが、“露出量”や“ツイート数が跳ねた”という数字だけでは判断しません。100万を1000万にしたのがいいとは限らず、目標設定が「1万を5万にする」であれば5万でも成果を出しているわけです。その会社が抱える課題を解決していれば、それは評価できること。単純にマスメディアへの露出が多ければ良いわけでもないですし、規模は小さくても重要な成果は見落とさないようにしたいと考えています。
—審査委員の10人中9人が落としても、1人が議論の土台に上げてくるといったこともあるのですか?
矢野:さすがに1人だと厳しいのですが、「見落としはないですかね?」ということはいつも議論します。得票数だけで上げるのではなく、当落ラインのところに何かこぼしてはいけないものがないか、そこを重視します。「なぜこれがいいか」という個人の意見が「その視点から見ると確かに成果だし、ジャンプだね」と他の委員の賛同を呼び、残される場合もあります。
悩ましいのが、去年くらいから自治体や公共団体のエントリーが増えて、単に売上やシェアのような従来の指標で評価できないものが出てきたということです。話題化することが課題であれば、ソーシャルでバズったというだけでも目標達成なのかもしれないし、何をもって成果とすればいいのか難しい。ただ、そういうものも評価するのがこの賞の意義だという意見もあって。金額換算できない価値でも、それが課題解決の成果なのであれば評価しています。