【前回コラム】「コピーライター適性テスト:いい質問を思いつけない人に、いいコピーは思いつけない。」はこちら
新人賞は勇気をくれる
東京コピーライターズクラブの最高新人賞を受賞した頃、大学時代の友人と会う機会がありました。そして「コピーライターの新人賞を獲ったゼ」と自慢したのです。彼は素直に喜んでくれました。「中村、スゴイなぁ。新人賞か。そんなに分厚い本に顔写真とか名前とか載るのか、スゴイなぁ。」そして、建設業界に勤める彼がこう呟いたのです。
「オレなんて新人で、建築機械の契約でトップを取っても、別に賞なんてないし、そんな立派な本に顔写真が乗ったりすることもないもんなぁ。月末の営業所で打ち上げやってもらえるくらいだろうなぁ」
その時、ハッとしました。世の中のいろんな職業の「新人」はいろんな業界で頑張っている。たまたま広告業界という場所にいるから、新人賞として表彰されトロフィーをもらい、晴れやかに年鑑に記録される。恵まれた特殊な業界にいるということを忘れてはいけない、と思ったものでした。
コピーライターという職業には、別に資格があるわけではありません。免許も必要ありません。だからいつも、「このままコピーライターという職業をやっていけるのだろうか?」という不安が常に付きまとうのです。そんな時TCCの新人賞は、コピーライターとしての資格をくれるのではなく、小さな自信あるいは勇気をくれるのだと思います。
広告賞に満票はない
書籍『最も伝わる言葉を選び抜くコピーライターの思考法』の中で、コピーを書くという作業には、言葉を「出す」ことと「選ぶ」ことの二つの仕事がある、と書きました。「選ぶ」ことが一番大事で一番難しいことだと書きました。
例えば、広告賞の審査員。これも、「選ぶ」という眼が必要になります。審査員というと偉そうなイメージかもしれませんが、東京コピーライターズクラブのTCC賞の審査員の場合は、全会員の投票で選ばれます。この人に褒められたらうれしいな、この人に選んでほしい、認めてほしいと思う人に投票するのです。
選ばれた約30人の審査員は一応「コピーを見る目がある」とされているわけですが、審査では満票になることはほとんどありません。ということは、人によっていいコピーとそうでないコピーが違うということ?それじゃあ、若いコピーライターは何を指標に生きていけばいいの?ということになる。
コピーが書けるということは、コピーが選べるということです。コピーを選べる人には、そのコピーがいいコピーかどうかを測る「目盛り」のようなものがある。そして、その目盛りは人によって少しずつ違うのです。ある人は「これは新人としてのレベルをクリアしている」と投票する。またある人は「私はそうは思わない」と判断する。だから、新人賞の投票などで満票になることは滅多にないのです。
コピーライターに免許はありません。いいコピーが選べるかどうかの試験もありません。ただ、その人が書いたコピーがかなりの確率で人の心に届くとしたら、その人の「目盛り」は確かだといえます。新人の時はまだその目盛りがうっすら、ぼんやりしている。それをだんだん濃く、ハッキリした目盛りにしていくしかないのです。
広告賞の使い方
TCC賞や宣伝会議賞というと、どうしても「受賞作」に目がいってしまいます。でも「コピーを選ぶ目を養いたい」と思うならば、コピー年鑑なら「ノミネート作品」や「一般掲載作品」に、宣伝会議賞なら三次審査通過作品、最終ノミネート作品のコピーにも注目すべきです。自分より経験のある審査員のコピーライターたちは、どういうコピーが一定レベルをクリアしていると判断したのか、そこを見るのです。
「自分もこんなコピーを書きたいな」でもいい。「え〜?このコピーのどこがいいの?」でもいいんです。大事なのは、そのコピーのどこがいいのか(あるいは、いいコピーだとは思わない、という理由)を自分の言葉で言えるようにすることだと思うのです。
そういう意味では、もっと、コピー年鑑も宣伝会議賞も、「どの審査員がどれに投票したか」が全作品、簡単に検索できるようになればいいと思います。このコピーをいいと思った人は誰か、いいとは思わなかった人は誰か。自分の尊敬するあの人は、何を良しとしたのかが一発でわかる本。
昔、「勇気、あるいは度胸」というテーマのコピー年鑑審査委員長だった岡田耕さんの言葉を思い出します。「審査員は別に偉くないんだよ。自分の選んだコピーを表明するだけ。審査員がみんなに審査されているんだよ」と。全く同感です。
『最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法』
宣伝会議刊(2017年3月1日より全国書店・ネット書店にて発売)
見出しがすべて「広告コピーのチェック項目」になっています。
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