資生堂・音部氏が語る、マーケティングを成功に導くために必要な「戦略」

不測の事態にも対応できる戦略設計のポイントとは

続く第二部では、同じく戦略をテーマにした『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』の著者 磯部光毅氏も登壇。磯部氏が音部氏に戦略の使いこなし方などを質問する形式の対談を通して、戦略への理解をさらに深めた。

磯部氏がまず質問したのは、戦略を考えるプロセスについて。音部氏は「最初に目的、次に目的達成のために必要な資源を考える。目的に対して資源の量が多ければ、目的を上方修正したり資源を減らしたりして、両者のバランスがとれた戦略を組み立てる」とプロセスの基本を説明した。ただ、多くの場合は、外的・内的環境の変化の影響を受けながら、都度調整して戦略を組み立てることになる。「目的と資源を解釈するプロセスでは、実際のところ行ったり来たりするものだ」と音部氏は補足した。

戦略を考える際には、事前に想定される不測の事態も洗い出しておきたい。あらかじめ不測の事態を想定しておけば、万一現実に起きた場合でも落ち着いて対応できるからだ。「資源の予備を残して戦略を組み立てたり、不測の事態のリカバリー策を考えたりしておく。こうした準備をしておけば、大抵の事態には対応できるだろう」と、音部氏は言う。自身のクライアントからバッファを取ったプランニングを依頼される機会が増えたという磯部氏もまた、「今は市場の競争が激しいので、ある程度バッファを取って戦略を組み立てるのが適切だと思う」と同様の見解を述べた。

戦略の組み立てが成功した例として、音部氏は「ファブリーズ」のマーケティング事例を紹介した。もともと布用消臭剤として販売していた同製品は、いまや空間用消臭・芳香剤として世界1000億円を超える規模のブランドに成長している。

当時のチームは、「5年後に国内8割の家庭が毎月ファブリーズを買うようになっているとしたら、何が起きているハズか」と問いを設定して目的を再解釈したという。検討を進めるうちに、従来打ち出していた「洗いにくい布製品の消臭」という製品特徴は「部屋にある布製品のにおいが取る」と再解釈され、その結果、「部屋のにおいを消して快適な空間にする」新しい価値を市場に打ち出すことに成功した。

次ページ 「戦略の成果を柔軟に評価できるKPI設定を」へ続く

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