見逃し配信はCMが見られている
これはTVerのダウンロード数とアクティブユーザー数がぐんぐん伸びていることを示すグラフです。「逃げ恥」が大きく普及を伸ばしたわけですが、その後さらに拍車がかかっています。もうドラマをネットで見るのは当たり前だし、海賊版の画質悪いのを見るんだったら公式配信で見たいと思ってくれるようです。
そして面白いことに、「CMが流れても気にならない」という答えが動画投稿サイトよりTVerの方がずっと高い。これ、自分で考えても不思議なのが、YouTubeだとCMついてるとイラーッとして早くスキップしたくなるのに、TVerだと大人しく待っちゃいます。テレビなんですよ。見逃し配信はテレビと同じ気持ちにさせられるんでしょう。だからCMの完全視聴は90%以上あるそうです。
ネットにテレビCMがもうやって来ています。堂々と欲望を喚起しにネットを闊歩しようとしています。それでもネット広告側は「広告は嫌われちゃうんで、欲望を充足しますね、広告が欲望を喚起する時代じゃないですからね」と言い続けますか?そんなこと言ってたら、ネット広告は新商品の発売キャンペーンは託してもらえなくなっちゃいますよ。
ここでまた、この連載で前に書いたことを、前にお見せした図を使ってほじくりかえします。
これは何度も取り上げているJIAAの「ネイティブ広告ハンドブック」の中の図をもとに私が作成したものです。いわゆるファネルですが、いまネットの時代になって新聞雑誌広告が後退してしまうと、右の状態になっていることを示しています。
乱暴に言うと、いま広告は「テレビで認知させてネットで刈り取る」仕組みになっちゃってます。これこそがやばいと思うんですよ。ある意味、気持ちを無視した仕組みです。さっきとちょっと違ったこと言っちゃうけど、いちばん大事な「欲望の喚起」ができてない。「欲しい気持ち」にさせる部分が欠落しています。
少し前ならけっこうテレビCMですぐに「これ買おうかな」と思えたかもしれない。でもいま、情報が洪水のように押し寄せる中で、15秒CMで認知はできても、「買おうかな」にはなかなか至らない。大手広告代理店さんも最近は「CMを見た人にバナーを見せる」仕組みに躍起になってますけど、それは本当に購入に結びつくんでしょうか。
上のファネルで言うと「興味・関心」の部分、本当はここがもっとも「欲望を喚起」するパートだったはずです。そこがいま、ない。失われてしまっているんです。
ネット広告に携わる皆さんはぜひ、この図をじーっと見て考えてください。自分がいまやってるのは、この中のどの部分だ?おそらく、「購入」のパートです。あるいはそれに近い部分。
これからのネット広告が担うべきなのは、このファネルのすべてのステップです。「購入」だけ担ってるとあんまりお金になりません。「欲望の充足」は「購入」に近いんです。そんな奥ゆかしいこと言わないで、ファネルの全部を担うのはおれだ!くらい力強いこと言ってください。そうすると、いまとくに「興味・関心」の部分が足りないことが見えてきます。
それ、やりましょう。そしてその部分にはコンテンツが必要です。これまででいうクリエイティブが、これまでとはちがう形で必要になるんです。
コンテンツ力で、興味関心を担いましょう。欲望を喚起させると言ってのけましょう。そしたら、お金が取れます。いま広告に必要なのは、意識の高さや奥ゆかしさではない。雄々しさと図々しさと機微機転なのです。
この話はまだまだ続きますが、来月書きますね。いい加減、ビデオコミュニケーションの話をしないといけませんし。
あと、私の意見に、さらに田端さんからご意見いただけるようなら、『オーケー、認めよう、広告はもはや「嫌われもの」なのだ』の続きを、アドタイさん的にはぜひ、のようです。
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Borer 」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書「拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―」。株式会社エム・データ顧問研究員としても活動中。お問合せや最新情報などはこちら。