「きよらグルメ仕立て」のアキタに聞く、ACC賞グランプリの効果

CMは氷山の一角。ポイントはその下にある

—このキャンペーンのどういったところが人々の心に届いたのでしょう。

山﨑:気球を操縦するパイロットは「風にのって進むと、風を感じなくなる」と聞いたことがあります。気球はエンジンが付いていないので、気球が風と一体になって、はじめて前進することができるからです。お客さまを風に例えるとすると、アキタのマーケティングはいまこの瞬間、無風になっているかもしれません。消費者の風を後追いしたこともなければ、風を感じたいと思ったこともない。ただただ、いまやるべきことをやるというだけです。でも、それには2つのルールを設けています。1つは「クライアントファースト」であること。それから「倫理観に反しないこと」です。もちろん、ビジネスですから赤字ですることはありませんが。

—おっしゃる「クライアント」とは、消費者のことですね?

山﨑:消費者以外をクライアントとして定義していません。直接、取引していただいているバイヤーの方々は、パートナーとして捉えています。それが私たちのCM戦略のひとつのキーワードになっています。クリエイティブの福部さんに伝えたことは、「安全・安心・新鮮」な卵にこだわり抜いているというメッセージを密かにどう表現するかということ。「安心・安全」ではありません。「安全・安心」。なぜなら、安心は目安にしかなりませんが、安全は100%根拠がなくてはうたえません。だから、「安心」が「安全」の前に出ることはありません。

私たちは完全直営一貫生産で、卵を産む鶏のエサから出荷のパッキングまで、すべて自社で行っています。でも、多くの鶏卵企業は、エサをはじめ、パッキングや営業も別会社になっている企業がほとんどです。そのため、もし何か問題が起きたときに、追いにくいんですよね。

商品に「グルメ仕立て」と付けていることにも、きちんとした根拠があります。ミシュランで星を獲得しているようなフランス料理のシェフやパティシエを21人集めて、ブラインドテイスティングをしてもらいました。選ばれたのは、「きよらグルメ仕立て」でした。もし、ここで選ばれなかったら、この商品は発売中止になっていたかもしれません。

CMは氷山の一角にすぎず、水面下にある商品力をどれだけしっかり構築できるかがマーケティングのポイントになっています。以前、世界一のレストランとされる「noma(ノーマ)」が日本に限定出店した際に選ばれた卵も「きよらグルメ仕立て」です。これまでは、ターゲットを絞り込んだマーケティング、いわゆるデジタルマーケティングに特化していました。そして、CMをきっかけに多くの大衆をターゲットにしたマスマーケティングの領域に入っていきました。

—テレビCMの登場ですね。

山﨑:卵はコモディティ化された商品で、価値より価格で選ばれる商品の代表とも言えます。「夕食はすき焼き」と決まった瞬間に卵が必要となりますが、その卵はどれでもいいと思われています。そこで私たちは、「卵と言えば、自然と思い浮かぶ商品」にしようと仕掛けました。でも当時、「きよら」と言っても知られていないので、タレントやキャラクターという記号を使うことにしました。

直接、女優の小雪さんに出演を交渉しました。当時、小雪さんが第三子の産休後、半年後に復帰予定との情報があり、それで「復帰後の、一番最初の仕事をアキタにできるのであれば、CMに起用したい」ということを伝えました。「noma」というレストランは、一流で気品があって、手が届かないイメージです。それは小雪さんのイメージとブレないでしょう。その一流が選んだ卵が、スーパーで買える「きよら」だったんですよね。「one of themの卵」というコモディティから、「今日はきよらを食べたいからすき焼きにしよう」と思われるブランドにするための戦略でした。

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