テレビとCMを近づける。
田中:澤本さんが審査委員長になられて、審査委員も一新されました。幅広いバックグラウンドを持つ方々が審査に加わりますが、審査に当たるスタンスをお聞かせください。
澤本:ラジオの審査委員長を5年やってみて、とにかく楽しかったし、審査委員長になるといろいろ変えられるということがわかったんです。というか、最初は2年間という約束でお引き受けしていたんだけど。
田中:(笑)ラジオと言えば澤本さんだから。
澤本:ラジオCM部門の前任だった小田桐昭さんに寿司をたらふくごちそうになって、食べ終わってから「澤本くん来年やって」と。もう戻せないんで、引き受けるしかなくて(笑)。タダよりこわいものはないですね。
で、それまでの審査委員を見てみると、ラジオを“つくる人”ばかりだった。自分たちの間で相互に選んで「いい」「悪い」と言っていてもしょうがない。選ぶのなら、選んだ結果を世の中に届くように発表することで「ラジオCMが元気だよ」と見えるようにしたいし、若手がこの賞を獲りたいと思うようにしたいし、一般の人も「おもしろい」と思えるものにしたいと思ったんです。
まず、審査委員に“つくる人”だけでなく、ラジオを“放送している人”も入ってもらおうと、若い人に最も聴取率のよいTOKYO FMのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」に出演している、お笑いトリオのグランジ 遠山大輔くんに入ってもらいました。ラジオに異常に詳しい芸人さんがいると聞いて、そのダイノジ 大谷ノブ彦さんにも頼んで。とにかく審査委員を選ぶ時に、「ラジオ好き」ということを基準にしたんですよ。それで審査をしてみたら、審査会がすごくおもしろかったんですよ。
田中:ラジオ好きが集まったからですね。
澤本:ラジオ好きが、好き勝手言うから。昨年はラジオ好きアイドルの乃木坂46の橋本奈々未さんをお呼びしました。これまで「若手に対してのメッセージとして選びたい」とか言っているわりに、20代の審査委員がいなかったんですよね。
そうしたら彼女の感想が、いちいち的確なんですよ。「この言葉は20代みんな知っています」とか、僕らの知らないことを知っている。今までは、選んでいる人がおっさんだから、選ばれていなかったラジオCMも多分あって、その発見を彼女がしてくれたんですね。それを含め、審査委員をやると自分がすごく勉強になる。それで楽しくて5年やっていたら、フィルム部門の審査委員長もやることになってしまって。一応2年でやめていいと言われているけど。
田中:過去にそんなこともありましたね(笑)。
澤本:やるとなると、初年度が大きく変えるチャンスじゃないですか。僕はテレビCMは今、自分から存在感をアピールしていかないといけない時期だと思っているんです。それでまず何より、審査委員の中に僕が素晴らしいと思う番組をつくってらっしゃる、バラエティ番組とドラマのプロデューサーをお呼びしました。テレビという同じ画面を通して見るメディアと一緒にテレビCMを評価すべきで、CM単体で評価するものでもないと思ったんです。バラエティやドラマという一般の人に広くウケなきゃいけないものをつくる人の視点ではどうかと。
また逆に、彼らにCMにどういうものがあるかを知ってもらって、そのうえでご自分たちの番組を考えてもらえるきっかけにもなればと思うんですね。そうすればテレビ番組とCMはもっといい影響をしあえて、テレビ自体が元気になる。また彼らが来てくれることで、番組側の人たちがこっちを見てくれるじゃないですか。
田中:そうですよね!
澤本:テレビとCMがもっと協調していって、いいものをつくっていくべきだというのがずっと持論で。それで電通のテレビ局を兼任したんです。
田中:そんなことをする人は、最初で最後かもしれない。本当にあの時は感動しました。テレビの大きさやお茶の間での見られ方までを想定してCMをつくるような人は、澤本さんが初めてだったから。受け手の視点で作るってこういうことだなと。
澤本:その延長線上で、“審査委員長”を使おうと思っているので。やってることは、ずっと同じなんですよ。
田中:でもやり方は進化している。視聴者は番組とCMを切り離して見ていないですからね。
澤本:テレビ局を兼任した当時に比べて、ずいぶんテレビとは仲良くなってきていると思うんです。ワールドカップのハーフタイムがCMのお祭り的になっていたり。流す場所と内容の関係は、実は大切です。
テレビというものは番組とCMで成り立っているので、両方おもしろくしていくということが大事だと思うんです。テレビ局とCMをつくる人がもっと密に連絡を取って提案しあえるような環境、きっかけをつくることに“審査会”を使いたいと思ったんですよ。
メッセージに「一番の目標は、楽しく審査すること」と書いたのは、審査会が楽しければ、その場で審査委員同士でそういう話になったりするじゃないですか。それが、僕としては一番目標とすることなんです。テレビというメディア自体のために。