もっと愛される街を作るために作られたロゴの構造とは
「エコノミスト」誌調べ、世界一住みやすい街であるメルボルンの一番の特徴は、何より「多様性」です。そもそもオーストラリアは多国籍国家であり、その中でもメルボルンは街の人口の4分の1が移民という多国籍文化と異国情緒が漂う街です。実際に街を歩いても、多様な文化を感じることができます。
また、メルボルン市民に話を聞いてみると、食もアクティビティーも一言で言い切れないほどのたくさんの種類と特徴を誇ります。いろんな人種や文化が一つの街で味わえる、様々な顔を持つ街です。この特徴を伝えるためにロゴにデザインされた2つの要素を紐解いてみます。
1)街の特徴である「多様性」をそのままロゴデザインへ
まず一つ目は、自在に変化するロゴであること。多国籍を基盤にした多様性が魅力的なこの街の特徴を、そのままロゴの特徴にしたのです。メルボルンには、一年を通して様々なイベントがあります。たくさんの民族や移民者を基盤にしているため、ロゴを使用する機会も様々です。そのため、このロゴの制作時も、いかなるシーンにも対応できる機能性を求められたそうです。アレンジが柔軟にできるよう設計したことにより、ロゴは自由自在に色や柄を変えて街中に定着することができたのです。
2)3秒見て子供でも描けるロゴデザイン
二つ目は、シンプルな要素で構成されていること。柄や色や大きさ、多様な変化をしても成立する理由は何より単純な形であったことだと思います。人々の指針となるからこそ、その要素はシンプルでなくてはいけません。標識がややこしいと道に迷ってしまうのと同じことです。
実験としてメルボルン市民に、頭の中で覚えているメルボルンシティロゴを描いてもらいました。
形の中身を書くのに皆さん少々悩んではいましたが、ほとんどの人が迷いなくまず真っ先に「M」のシルエットから書き出しました。メルボルンの頭文字を使った単純な形により、とても覚えやすく、認識しやすいロゴになっています。子供でも描けるシンプルな形により、文字としてしっかり認識できるだけでなくたくさんのデザイン展開を可能にさせたのです。
メルボルンロゴから学んだ、これからのロゴデザイン
メルボルン市は人々にもっと街を愛してもらうために、このロゴを作りました。このロゴから学べたことは、愛されるデザインを作ることより、“愛される街のための”デザインを作っていたことです。シンプルな形で親近感を抱かせ、いろんなシーンに柔軟に適用したことで、様々な人に触れさせました。
ひとつのロゴではなく、人々の行動や街を考えた「仕組み」を作ったのです。私は、このようなロゴの「仕組み」をしっかりと作ったことにより、人々の心を掴めたのではないかと思いました。これは街だけに限られた話ではないと思います。自治体や企業全てにおいても、これからはひとつのロゴの「仕組み」を作ることによって、その街や企業や自治体のメッセージがより人々に浸透するのではないでしょうか。人々に親しまれやすい仕組みをシティロゴに作ったことにより、メルボルン市が愛され続けるように。
ロゴが使われる未来のシーンや人、その雰囲気に重点を置いて想像してみることで、「仕組み」を作るヒントが見えてくるかもしれません。メッセージやイメージをより広く、よりたくさんの人に浸透させるために、これからはロゴの「仕組み」を考えてみるべきだと気づかされました。