認知度1%未満からのチャレンジャー
今年4月から始まったガス自由化で都市ガス事業に本格参入するにあたり、日本瓦斯(ニチガス)の最大の課題は知名度だった。今年1月時点で、東京都心部における知名度(純粋想起)は1%未満。「認知度の向上とブランドの確立を図ることが我々の急務でした」と日本瓦斯 常務取締役 柏谷邦彦さんは話す。
ニチガスは、自由競争が先に認められていたLPガスの分野において、サービスと価格で業績を伸ばしてきた会社である。約60 年の歴史があり、LPガス利用の関東世帯の中では、高い認知度を持っている。一方で、自由化が認められていなかった東京23区はほぼ東京ガスの供給区域であり、ゆえにニチガスの認知度も低く留まっていた。
同社では、2017年の都市ガス自由化を勝負のタイミングと捉え、約2 年前から着々と準備を進めてきた。2015年にはまず企業ロゴをリニューアルし、新しいニチガスを印象づける先進的なフォルムに変更した。続けて同年、本社を八丁堀から代々木へと移転し、都心に本拠地を構えた。そして、ガス自由化が始まるタイミングで一気にCMをスタート。制服や社用車もこのタイミングでリニューアルする徹底ぶりだ。
今回の広告のターゲットは、主婦や子どものいる家庭だ。一般家庭向けのガス供給で60年の歴史を持つ“ガスのエキスパート”である同社の存在を、主婦や子どもにアピールするため、かわいらしいキャラクターを採用することにした。CMは、ガスの王様でありニチガスの営業社員でもある「ニチガス・ニ・スルーノ三世」が国民に向けて自由化開始を知らせるという内容だ。
「ニチガスを選んでもらうには、まずガス会社をお客さま自身が選べるんだ、ということから知ってもらわなければなりません。自由化を活性化させないと、当然ニチガスを選ぶという話にもならないからです。『ニチガスを選んでください』と押しつけるCMにはしたくないという思いもあって、“ 控えめな王様”がCMを見ている人たちに、あなたたちが“主権者”なんだよと、選択肢が増えたことをアピールする形にしました」と柏谷さんは明かした。
ニチガス、博報堂、AIベンチャーのメタップスの3社でタッグ
このCMの企画は、ニチガスと博報堂、メタップスの3社でチームを組んで進められた。メタップスはITや人工知能を活用したデータマーケティングを行うAIベンチャーで、ニチガスとは以前から資本業務提携を結んでおり、クラウドシステムを活用して業務のコスト削減を図る「雲の宇宙船」システムなどの複数のITプロジェクトを共に手がけている。広告制作においても、企画や費用対効果分析に同社のデータ分析技術が不可欠だと考えた。
博報堂へのオリエンでは、ニチガスのカルチャーを理解し、共有してもらうことを最重要視したという。「ガス業界は、与えられた供給区域の中で独占事業をしてきた保守的な業界です。しかしその中でも当社は、LPガスで既成概念を打ち破るサービスをいち早く取り入れ、成長してきた歴史を持ちます。我々のカルチャーのコアを十分理解してもらい、企業の本質に根ざした表現にしたかったので、現場のリーダーを連れてきて実際に会ってもらうなど、何度も打ち合わせしながら、共通認識として落とし込んでいきました」。
CMの企画過程では、3社の人間が“ 所属や肩書も関係なく” 膝を突き合わせて議論し、博報堂から出した案のタレントやストーリーをあらかじめメタップスにデータ分析してもらった上で、ターゲットに響く企画を議論していったという。ニチガスのカルチャーを忠実に再現しながら、自由化のワクワク感や、新しいことが起きる楽しさを伝えていける企画を見極めていった。
3社のタッグは、従来の広告のプランニングプロセスを再構築することも可能にした。柏谷さんは「私たちはテレビCMの素人ですから、最初は広告会社と話をしても専門用語はわかりませんし、金額の明細を見てもなかなか理解できませんでした。そこを細かく判断できるように、パーツに切り分けて『やるかやらないか』の選択肢をつくってもらい、プロセスごとの議論をできる体制を整えました」と話す。
交通広告でも、地区全体で一定期間展開して後日レビューをもらうのではなく、路線単位、日程単位で細かく指定し、費用対効果を見て検証している。メタップスが入り、博報堂も理解し対応してくれたからこそ、こうしたプランニングが実現した。
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※本記事は『ブレーン』7月号特集に掲載されている記事の一部を編集したものです。
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