【前回】「コトバがない広告って、つまんなくないですか?福部明浩×小杉幸一×尾上永晃×福里真一【後編】」はこちら
また、電通の倉成英俊さんがリーダーを務める電通総研 B チームは、私的活動/趣味/大学の専攻/前職などを通じて、一芸に秀でた40人の社員を束ねたシンクタンク。2014 年7月の発足以降、独自のリサーチを通じて開発した新しいコンセプトを 『Forbes』 などで発表し、2年で50以上のプロジェクトをコンサルティングしてきた集団です。
今回、その両者が話すのは「コンセプトを輸入するな! 他人のコンセプトを簡単に引用するな!」というアンチコンセプト流用。つまり「アンチ・デザインシンキング」です。つい陥りがちな、知識先行型のメソッドを解体し、柔らかくアタマをもみほぐすセッションです。
コンセプターとはどんな仕事なのか?
倉成:皆さんご存じの通り、坂井さんは元祖「コンセプター」という肩書で一世を風靡(ふうび)されました。コンセプトを軸に、どんなふうにお仕事をされてきたか、まずは話していただけますか。
坂井:最近「何屋さんですか」と聞かれると、「実態はクリエーティブの代理店ではないでしょうか」という言い方をしています。もっと具体的に言うと、大企業のデザインセンターが僕のお客さんで、そこが求めるものは何でもつくりますよ、ということです。しかも、そこが求めるものは時代が移り変わるごとに、どんどん変化していくんですよ。
倉成:どう変化していくんですか?
坂井:1980年代から90年代に求められたのは、プロダクトデザインでした。しかし95年にインターネットが一般に登場して、その後にiPhoneがさまざまなハードウエアを吸収してプロダクトの形は求められなくなってしまいました。つまり「もの」の時代が終わったんです。そこで当時は、大学でキャリアエンパワーメントやインサイトの構築法などを教えていました。
最近は、企業に対してクリエーティブなチームをつくるためのアドバイスをする機会が多いです。あとは、僕が面白いと思う人材を企業に紹介する仕事もしています。さらに、デザインリサーチといって、外資系メーカーに日本人のデザイン観をまとめた資料を提供するようなこともありますね。
今一番売れているのは、グロースハックに関連する業務です。ウェブサイトを改修して集客率を2~3割高めて、利益を1~2割増やすような仕事をしている会社のエージェント業務や、ベンチャー企業のためのプロトタイプ開発のコンサルティングですね。若いクリエーターの育成を依頼されることもあります。
お客さんが僕に求めるのは、沈滞したクリエーティブを刺激したり、チームのモチベーションを引き上げること、それからイノベーションだと思います。
倉成:さすが業務範囲がメチャクチャですね〜。坂井さんの肩書である「コンセプター」の由来について少しお話しいただけますか。
坂井:実は「コンセプター」という肩書は、僕がつくった名称ではないんです。昔、スターダストプロモーションの細野義朗社長から、僕をテレビに出演させたいので、どんな仕事をしているのか、聞かれたんです。その時に「コンセプトワークをやっています」と答えたら、「長いから、コンセプターにしよう」と。
これまでコンセプトを提供してきた商品は、仏壇から自動車までさまざまです。過去に4台の自動車開発に関わっていますが、もし僕がデザイナーという肩書だったら、絶対に開発に関わることはできなかったと思います。「コンセプター」という曖昧な領域にいるからこそ、コンセプトは僕の担当で、デザインは御社のデザインセンターの担当でというすみ分けができたのです。
例えば、僕が考えた日産自動車「Be-1」のコンセプト「デザインを退化させよう」は、それまで四角い車しかなかった世界の自動車市場に丸いフォルムが出てくるきっかけになりました。オリンパスのオートカメラ「O-product(オープロダクト)」は、黒いプラスチックしかなかったカメラの世界にアルミニウムを採用して、銀色のデザインのカメラを市場に投入しました。このように「0から1を生む」ことがコンセプターの仕事です。
倉成:お会いした時に、我田引水のために「コンセプター」を名乗られたのではないと知って「信頼できる方だな」と思いました。
坂井:それはありがたい。我田引水だったら、ただの詐欺師になりますからね。
倉成:ただ、そういう「偽もの」も多いじゃないですか。僕らの世代や若い子にも、肩書に「コンセプター」と書いているやつがいるんですよ。
坂井:そういう人は、たくさん見ています(笑)。
倉成:坂井さんは、元祖だからいいんです。どうしても「コンセプター」と名乗りたいのであれば、坂井さんに弟子入りして実績を上げて「のれん分けしてください」と言うべきだと思うのです。
何もなしに肩書に「コンセプター」と書いて稼ごうとするのは、倫理に反していると思います。それに、クリエーティブで勝負するのであれば、他人のふんどしではなく、はみ出してもいいから、自分でつくった肩書を名乗る方がいいですよね。
坂井:確かに、僕はツールも手法も全部、自分でつくってきました。ただし、それは僕がどこかの企業に入社した経験が一度もないため、その会社のフォーマットを活用するチャンスがなかったからだとも思うのです。もし大企業に入っていたら、そこの手法を使ったかもしれません。