【前回】「「アンチ・デザインシンキング」-輸入した考え方に踊らされないための方法論-坂井直樹×倉成英俊【前編】」はこちら
また、電通の倉成英俊さんがリーダーを務める電通総研 B チームは、私的活動/趣味/大学の専攻/前職などを通じて、一芸に秀でた40人の社員を束ねたシンクタンク。2014 年7月の発足以降、独自のリサーチを通じて開発した新しいコンセプトを 『Forbes』など で発表し、2年で50以上のプロジェクトをコンサルティングしてきた集団です。
今回、その両者が話すのは「コンセプトを輸入するな! 他人のコンセプトを簡単に引用するな!」というアンチコンセプト流用。つまり「アンチ・デザインシンキング」です。つい陥りがちな、知識先行型のメソッドを解体し、柔らかくアタマをもみほぐすセッションです。
「手法」が重要ではないのはなぜか?
倉成:アンチ・デザインシンキングの話にいきましょう。デザインシンキングで肝になるのは、非デザイナーを対象にしていることですよね。デザイナーの思考法やプロセスを、そうでない領域の人たちが取り入れるというものです。
坂井:確かにデザインシンキングは「問題を発見し、解決する」という分かりやすい手法であるため、非デザイナーにもてはやされました。特に「IDEO(アイデオ)」に注目が集まったことも大きいでしょう。でも僕は、この手法だけで「0から1を生む」のは無理だと思います。そこに相当、ビジョナリーを入れないといけないでしょう。
IDEOは91年頃までは、プロダクトデザインの会社でした。しかし、iPhoneが登場して「もの」の時代が終わり、デザイナーはいらなくなってきた。そういう環境で、たぶんデザインシンキングを提供していく事業を拡大させたのだと思います。
倉成:坂井さんは「万能な、または魔法のような手法はない」とお話しされますが、同じことを最近、BチームのAIに詳しい電通デジタルの同期が言っていました。「ノーフリーランチ定理」といって、AIは万能と思われがちだが、全てに対応できるAIはない。無料のランチみたいにおいしい話はないよ、ということらしいです。
メソッドについても、同じことが言えますよね。海外に追い付け、追い越せという時代から変わらなくてはいけないのに、価値観を変えられずに、目先の事ばかりで相変わらず日本は焦っています。そんな中で「これが旬だ!」と言われると、すぐに食いついてしまう。これには、やはりアンチを唱えたいんです。なぜなら二匹目のどじょうは、「ノット・イノベーション」です。その姿勢がダメでしょう。そこで、「魔法の手法はない」ということを、坂井さんと僕で声高に主張した方がいいと思うんですよ。
坂井:いいですね。やはり、手法が重要だと錯覚してしまう人が多いのでしょう。手法にも、いろんな流派があるのですが、どれも似ています。スタンフォード大学のデザインスクール「d.shool」の手法は、「共感→問題定義→想像→プロトタイプ→テスト」です。一方で「IDEO」は「発見→解釈→観念化→実践→進化」。ユニークなのは「frog design(フロッグデザイン)」で、「破壊的仮説を立てて、マーケットに眠る破壊的チャンスを見つけ、破壊的アイデアをいくつか生み出す」と、全部が破壊的なのです。これで成り立つのかなと、思うんですけどね(笑)。
こうして見ていくと、結局は「情報を集める→創り出す→実現する」を繰り返しているので、どこも同じだと思うんです。
倉成:坂井さん率いる、「ウォーターデザイン」ではどうなのですか?
坂井:われわれの言葉では「サンプリング(情報収集)→カットアップ→リミックス→プレー」としています。特に一番重要なのは、ブランドのキーワードを抽出して編集し、コンセプト化するところで、僕はイメージボックスをつくります。それをもとにデザイナーをディレクションして、プロダクトをつくり、コンセプトを評価していきます。われわれが特殊なところは、ブランドを重視しているところでしょうか。
僕らで開発したマクロミルの「ブランドデータバンク」には、エモーショナル・プログラムというサービスがあります。人間には嗜好、思想によって、さまざまなブランドが貼り付いています。それを1枚のマップで視覚的に見られるようにマッピングしたものです。一人の人間が持つブランドは重要なものだけで平均 135あるようです。僕もお会いする人が、どのようなものを身に着けているか、できる限りチェックしています。
倉成:え!僕も見られていたんですか?
坂井:ふふふ…。チェックすると、その人がどんなポジショニングの感性を持っているのか、消費動向があるのかが見えてきます。
今から15年前に人々とブランドの関係を自動分類するプログラムをつくりました。縦軸が消費年齢で、横軸が保守から革新になっていて、9タイプに分類できます。この手法はターゲットにフォーカスした商品をつくるために活用しています。
倉成:僕らもメソッドをたくさんつくっていますが、それは出会ったばかりの方々と一緒にアイデアを生みやすくするためです。要は、あれは俺が思いついたんだよ!という新たなスターを生みたいからなのです。それは、クライアントの若い方かもしれないし、そろそろ引退しようとしているおじさんかもしれない。バックグラウンドも発想力も違う、いろんな人と一緒にアイデアを出し合って、全員にパスが回ってゴールして「やったね!」と言い合う。一番面白いところは、そこなのです。
それを実現するには、たくさん独自ツールを持っていて、課題に合わせてアプローチを変えられるようにしたい。もうひとつは、いろんなやり方をシャッフルして、プロセスの模様替えをしたら、新しいものが生まれてくるのではないかと試しているんです。
今、多くの人が西海岸からツールを持ってきています。それは自分でつくったメソッドでもなんでもないのに、いろんな会議に食い込んで「オープンイノベーションをやらないとダメです」「デザインシンキングが重要です」と言うものだから、うのみで始めて、結局イノベーションが起こらない状態になっている。
僕はみんながゴルフ漫画の「プロゴルファー猿」のようになるべきだと思います。彼は自分で木を削ってつくったゴルフクラブで勝負します。借りてきたアイアンで打つのはダメなのです。
坂井:同感です。そもそも誰にでも分かるというものは、落とし穴です。そんなところにイノベーションがあるはずがない。
倉成:デザインシンキングに絡めて、もう一つ言いたいことがあります。アメリカに視察に行った、とあるおじさんが、「デザインシンキングは素晴らしいから、日本も導入するべきだ!」と言ったら、それを聞いていたアメリカの学生が「ホンダやソニーのケースも参考になってるはずなのに、おかしくない?」といったそうで、「面白いな」と思いました。
同じようなことがいろいろ起こっていますよね。京都のサードウェーブコーヒーも、京都のコーヒーにインスパイアされ、サンフランシスコで昇華され、日本に戻ってきたら大行列になるみたいな。この構図がいろいろなところで発生している。もともと日本にあったのに、それに気付かずに海外からパッケージ化されて帰ってきて、日本人が右往左往する。
坂井:アシックス「オニツカタイガー」とナイキの関係もそうだよね。
倉成:日本の「うのみ国家」化に警鐘を鳴らしたいです。