「Enjoyment」という企業姿勢に立ち返った訴求
下平:当社のブランドスローガンは、今は「Because it matters」ですが、最初は「Enjoyment Matters」で、もともと「Enjoyment」が一つのキーワードになっています。これは生活の中に当社のテクノロジーをどうしたら楽しいものとして届けることができるかと考えるところから製品づくりがスタートしていることの表れです。
その視点で考えると、最初のカラーマネジメント用のディスプレイは、今から考えるとものすごくハイスペックで価格が高いものだったのです。そのハイスペック路線では、いくら価格を少し低めに設定しても、結局は日本で昔からある業界トップメーカーにいきなり対抗するのは歴史や実績の面からも難しいという学びになりました。
では、どうしたらいいのか。スペックが高くても、そこまで高いものは買わないんだなという反省もあり、もっとBenQらしさを打ち出そうと考えました。そこで最初の製品より若干スペックを抑えてコストダウンを図り、もっとカラーマネジメントを身近に実感できるような、「Enjoyment」して頂ける様な製品づくりを行いました。
藤崎:それはすごいですね。
下平:結局いろいろ調べてみると、写真を印画紙にプリントして写真展に出すような人はあまりいないことがわかったのです。もちろん写真コンテストへの応募者はたくさんいるのですが、今はプリント部門とデータ部門があり、データ部門への応募の方が多いということもわかりました。
藤崎:カラーマネジメントの「プリントを前提としたディスプレイ」という打ち出しが、本当に必要か考え直したわけですね。
下平:そうです。プリントありきという考え方をやめて、まずは製品を体験してもらおうと考えました。アンバサダープログラム開始前に行ったイベントでも、ほとんどの方から「色がこんなに違うというのは知らなかった」「実はこんなに綺麗に自分の写真が撮れていたんだ」と、BenQのカラーマネジメントディスプレイに衝撃を受けている方がほとんどでした。
カメラ本体で20万円、レンズで20万円などと、カメラ機材にお金をかけられているユーザーであっても、ディスプレイのクオリティにはこだわっていなかった、必要性は感じていたもののこんなに色の再現性が違うとは知らなかったという方が多いということもわかりました。
今までのカラーマネジメント用のディスプレイはプリントが前提ですので「プリントしないからそれはいらない」とか「プリントはするけど値段が高いし、ハイスペックのディスプレイを15万円で買うくらいならカメラのレンズを買いたい」という方が多かったというわけです。
藤崎:写真好きの心理はそうかも知れませんね。
下平:そこで「あなたにも実際はきれいな写真が撮れています。カメラにはしっかりとデータが記録されています。きれいでないと思っていたのはディスプレイのせいではありませんか」、「今までの写真で、物足りないと思ってレタッチしていた部分も、クオリティの高いディスプレイモニターでみれば実はちゃんと撮れていることがわかります」ということを体験してもらうと方向性が見えてきたのです。
その驚きや発見をいかにアンバサダーさんに体験してもらうか、違う言い方では、いかに楽しんでいただくか。「Enjoyment」がブランドのキーワードですので、楽しむということをアンバサダーイベントでは重要しようと考えました。
藤崎:具体的にはどんなイベントを行ったのですか。
下平:最初のアンバサダーイベントでは、「色が違う」に気づいてもらうことをテーマにしました。そしてどうすれば、楽しみながら理解を深めてもらえるかと考えた結果、実際に写真を撮ってもらおう、それも自分の撮った写真で比較してもらうのが最も説得力が高いだろう、ということになりました。
そこで水族館にみんなで行き、「フォトウォーク」を楽しんでもらい、会場に戻って、自分で撮った写真をBenQのカラーマネジメントディスプレイと、一般のディスプレイで比較してもらう体験型のイベントにしました。
藤崎:なかなか自分の写真を2台のディスプレイで比較することは、普通はありませんよね。
下平:その後行った、4Kのホームシアタープロジェクターの体験イベントも、アンバサダーの人たちに、できるだけ楽しんで頂きたいと思い、可能な限り大きな200インチのスクリーンを用意して、BenQクオリティを体験してもらいました。その巨大サイズでも髪の毛1本きっちり見える解像度に、アンバサダーの皆さんは驚き、楽しんで頂けたようです。
藤崎:体験してもらう、製品を楽しんでもらう、という姿勢をBenQさんが重視しているのがよくわかりました。今日はありがとうございました。