勤勉な日本人は優秀、かもしれないが、必ずしも優秀な人材ではない。

カンヌに湧いた先週・週末だと思いますが、(私が携わった仕事はブロンズでした)この勝手気ままに書かせてもらっているコラムも、おかげさまで4ヶ月持ちましたが、今回をひとまず最終回とします。

なぜなら・・・、3年間住んだポートランドから今週末の便で東京に発ち、7月より再びW+K東京オフィスの勤務になるからです。

さて少し挑発的なタイトルですが、これはこの3年間での気付きのようなものです。

会社の創設記念日に、オフィス内の吹き抜けに集まる弊社員たち。

幸か不幸か、600人程度が在籍する弊社のこのポートランド本社には、私を含めて日本人が2人(正確には最近アメリカ育ちの日本人デザイナーがインターンから採用されたので3人)しかおりません。言うまでもなくアメリカ人はもちろんですが、イギリス人、ブラジル人、アルゼンチン人、ルーマニア人、デンマーク人、ブルガリア人・・・世界各国からこのオフィスからのオファーを得てやってきた色々な国籍の同僚や上司が在籍し、彼らと働く機会に恵まれました。

ステレオタイプとして、日本人は器用で勤勉で真面目でハードワーカーと言われていますし、多かれ少なかれ、きっとそんな自負があると思います。相対的に他の国籍の人種と比べ、きっとそうでしょう。語弊を恐れずに言うと、きっと、日本人はマルチタスクで優秀です。(少なくとも私はそう信じたい。)

ただ、おしなべて日本人は「優秀な人材」かと言われると、それはちょっと分かりません。これが3年間の経験としての個人的な感想です。

会社により、人により、「優秀な人材」の定義はきっと様々ですが、会社もお金を払って社員をその職の“プロ”として雇うわけですから、アスリートが結果で判断されるのと同じように、乱暴に言うときっとそれは「結果の出せる人材」だと思っています。

ただ、魔法のような個人技や並外れた身体能力などで、一人で結果を生み出すことのできるアスリートと違い、(一部の圧倒的才能の持ち主でない限り)我々の仕事は少なからず共同作業が発生します。それはときに作業の共同・分担であり、ときにその関係は上下関係であり、ときにその相手との駆け引きがあり、ときに人種にとても気を遣い、ときにそこにはお金が絡み、ときにそこには社内・外の政治が存在します。

3年前こちらに来た当時の典型的な日本人のバカな私は、いちいち何か自分から言わなくても「仕事をしていれば誰かがそれを見て評価してくれる」と信じていました。ただある時、おなじ人種同士で通じる「阿吽の呼吸」は存在しないし、慣習も違う土地で、様々な違う人種と働いているのだから、声をあげて主張しないと、周りはおまえ(私)が実際何をしていて、何が出来て、何がしたいのかなんていちいち知る由もないことに気付きました。

当たり前の話ですが、自分のしたいプロジェクト(それは大抵の場合競争率が高い)がどうしたら自分のところに降ってくるようになるか、どうしたら気の強い東海岸出身のアメリカ人がネイティブでない自分の意見を聞くようになるか、どうしたら日本人がメキシコ系アメリカ人のクライアントの信頼を勝ち取れるのか・・・結果を出すためには、多少の運と、仕事実務を取り巻くファクターへの工夫とクリエイティビティが必要で、ある種の総合格闘技なわけです。

そして困ったことに、往々にして、周りの方が日本人よりも(少なくとも私より)口がうまくて、アピールがうまい。でもそれに勝たないと、彼らに勝る結果は出ないわけで、仮に、日本人が優秀だとしても、結果に結びつかないと人材としては全くもって優秀ではありません。

きっと「世界で働く」というのはこういうことです。

「グローバル人材を育てる!」というような日本語の記事や論調をよく目にしますが、とびきりの才能の持ち主は偶発的に生まれたとしても、「阿吽の呼吸」が通じる国内ではそれは残念ながらきっとなかなか育ちません。

幸いこの3年間、運だけは味方をしてくれたので、何の後悔もなく今週末のフライトで東京に帰ることができますが、大してデキの良くない私は、こんな当たり前のことに気付くのに多少時間がかかり、仕事のタイミング的に東京に再び移る頃になってようやく周りからの信頼を感じられるようになったわけです。

私の最終出社日前日に、オフィス中に貼られたポスター。5年前の東京でのハローウィンの時の私の女装姿の写真がどこからか入手され、そのパターン…。

東京オリンピックを3年後に控えた今、特にアドタイ読者の方々の業種・業界は、これまで以上に国内外で外国籍の人材や会社とコラボレーションする機会が横断的に増えると思いますが、会社や業界を超えてそのチャンスを最大化したいものです。

偏見に満ちた、私の勝手なコラムにお付き合い頂き、ありがとうございました。
最後に、来週から東京にいますので、機会がありましたら私を何かの席に誘ってください:)

【付録】
最近ローンチできた私の携わった仕事です。

Debate This.
2017 NBA FinalsでGolden State Warriorsを2年ぶりの優勝に導き、文句なしのMVPに輝いたKevin Durantに対する、これまでの批判や懐疑的な意見が正しかったのかを問うた、優勝記念CMです。NBA Finalsの第5戦で、GSWの優勝が決まった瞬間にCMを流しました。


Impossible Stairs
AIR MAX 30周年記念として発売され、未だに全世界で売り切れ状態が続く、Nike Air Maxの最新モデルNike Air VaporMax のCMです。30年に渡るAir Maxの進化を描くために、階段をモチーフにしました。

 

※連載「ポートランドから、好き勝手に綴る、リアルコラム。」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)
鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)

1987年生まれ。慶應義塾大学大学院を卒業後、2011年、Wieden+Kennedy Tokyoに入社。2014年、Wieden+Kennedy Portland本社に移籍。同社で日本人として初めてNike Globalを担当する。主な仕事に、Nike Japan「Nike RUN Fwd:」、タイポグラフィーからインスパイアされた眼鏡ブランド「TYPE」の開発、Nike「The Switch」や「JUST DO IT.」グローバルキャンペーンなどがある。著書の電子書籍シティガイド「REAL PORTLAND #リアルポートランド」はAmazon.jpで「海外旅行」部門第5位に。2017年最新版を最近刊行。
HP: http://www.shinyakamata.com/

鎌田慎也(Wieden+Kennedy Portland)

1987年生まれ。慶應義塾大学大学院を卒業後、2011年、Wieden+Kennedy Tokyoに入社。2014年、Wieden+Kennedy Portland本社に移籍。同社で日本人として初めてNike Globalを担当する。主な仕事に、Nike Japan「Nike RUN Fwd:」、タイポグラフィーからインスパイアされた眼鏡ブランド「TYPE」の開発、Nike「The Switch」や「JUST DO IT.」グローバルキャンペーンなどがある。著書の電子書籍シティガイド「REAL PORTLAND #リアルポートランド」はAmazon.jpで「海外旅行」部門第5位に。2017年最新版を最近刊行。
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