来年の視座2 「PR IN, FILM OUT」
これはゴールド以上に特に言えることですが、ほとんどの受賞作について「社会課題の設定」か「SNS上での導線設計」がしっかりつくられており、企画の初期段階からPRプランナーが入っている可能性を感じます。
また同様に、それらを世に届ける際の映像による感情喚起こそが、行動喚起につながることを改めて感じました。CMプランナー大事です。
企画としての新しさに、映像としての面白さを加えることで、キャンペーンの強さは大きくなります。例えば、
<THE CHILD REPLACEMENT PROGRAMME>※インテグレーテッド部門、メディア部門、ダイレクト部門でゴールド、プロモ&アクティベーション部門、ダイレクト部門でシルバーを受賞。
これは、ペットフードの「ペディグリー」が「子供が巣立ったらペットを飼おう」と呼びかけたキャンペーン。子供の服やソファーを、ペット用に変える方法を紹介したりしました。CMもチャーミングで、論理で考えた企画の匂いを消して、エモーショナルなものにしています。
<ADIDAS ODDS>※ダイレクト部門、デザイン部門でシルバー、ヘルス&ウェルネス部門でブロンズを受賞。
インドのアディダスで発売された義足ランナー向けの製品です。といっても、特別なシューズではなく「片方だけが2足」ある靴にすることで、義足ランナーが思いっきり練習に励めるようにしました。映像の世界観はシンプルながら引き込みます。
両事例とも、企画の根っこはPR視点をもつプランナーがコアアイデアをつくりつつ、CMプランナーがそれを魅力的に見せる。その組み合わせの相乗効果を改めて感じました。
来年の視座3 FEARLESS AGENCY?
最後に、今年現地で話題になったトピックスの1つが、ピュブリシスグループの1年間のアワード応募からの撤退。その予算を全世界で作業効率アップのためのAIを活用した制作環境の開発に使うそうです。(でもイメージビデオ見た限り、ああいうAIはつくるのは可能ですが、実用性は低い気がします。)
これはまさに、カンヌという広告業界の既得権益に立ち向かうことで、「ピュブリシス」=「FEARLESS AGENCY」として自分たちの立ち位置を定めたとも言えます。営業文句としては非常に使いやすいから真似するエージェンシーも増えるかもしれません。
ただ、これについての評価は控えますが、
●「広告業界とはクリエーティビティ・ファースト」(※1)であるべきだと考えたとき、「業務効率化システム」と「カンヌ」のどちらが社員にとってクリエーティビティの発露を促すのか?
●社員に向けて、カンヌに変わるモチベーションデザインを彼らがどう作っていくのか?
その2点をピュブリシスグループがどうするのかが、非常に楽しみです。
他にも語り出すとキリがないので、今回はここまでとさせていただきます。
今年はカンヌ自体が「カンバーセーション (むしろ、controversial?)」な存在になったという意味では私にとって記憶に残る年でした。(財布を失ったことも含めて……)