所有から共用の時代へ — シェアリングがもたらす変化

取材協力
國領 二郎(慶應義塾大学総合政策学部 教授)

近年のビジネスモデルの変化を象徴する一つが「シェアリング」。流通業界の効率化などでは早くから始まっていたものだが、その後はネットワークシステムの進歩と共に発展を遂げてきた。シェアリングの台頭はビジネスモデルを変えるのだろうか。またそれは同時に、従来の社会制度・慣習にも変化をもたらしうるものなのか。

複雑に進化する新しいビジネスモデルを読み解くカギは、トレーサビリティ(追跡可能性)。今日では消費者の手もとまで追跡が進み、消費者同士の共同利用も容易になりつつある。様々な分野での導入事例からその本質を探りつつ、その可能性と未来を考える。

近年、Airbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)といったネットワークの上で仲介をするプラットフォーム企業の台頭で、改めてシェアリングが注目を集めている。内外で著された文献レビューを行なうと、大きく二つの動向がある。

前者は、比較的直近のサービス・イメージを念頭に置いており、消費者・ユーザが保有しているモノを他の人に貸し出す場合である。後者は、事業者保有のものも含めた「資産の多重活用」という長期的・本質的な部分を捉えた場合である。

また一口に「シェア」と言っても「利用」のシェアと「共同所有」のシェアがあり、今日、普及が急速に進んでいるのは、どちらかというと「利用」のシェアである。台頭を説明するキーワードはトレーサビリティ(追跡可能性)。移動の履歴が共有できることで多くの資産・財の共同利用が可能になってきている。

流通業とシェアリング

歴史的にさかのぼれば、シェアリングは情報技術(IT)の進化と歩みを共にして、数十年単位のサイクルで深化してきたと言える。その代表的な例は、1970年代に流通用に開発されたバーコード技術に支えられた共同配送である。生産・流通システムにおける共同配送のニーズに応える決め手となった。すなわち、高度化する消費者のニーズに応えるために多頻度少量配送が必要になったことと、環境問題が深刻してきたことから、輸送車両を減らす必要があり、共同配送(トラックのシェア)が必須となった。

これを実現するトレーサビリティ技術としてバーコードが使われたのである。今ではごく当たり前のように一台の配送トラックに複数メーカーの商品が一緒に積載される共同配送が普及しているが、昔はメーカー別にトラックが仕立てられての店舗配送も一般的だった。

こうした仕組みを時間単位で細分化し、店頭で商品が販売されるごとに在庫情報を更新し、逐次的な少量配送を実現しているのが「POS(ポス、Point of Sale)システム」である。身の回りのコンビニエンスストアを例に考えても、配送センターで様々なメーカーの商品を小分けし、各店舗の在庫状況に応じて配送している。こちらは流通業における物流施設の共同利用を実現したと言える。

小売店の店頭までトレーサビリティを実現にしたPOSシステム。ここ10年ほどで更に利用者の手元までトレースが可能になっている、結果として、更には利用者相互での資産活用を可能にしてきている。以下では、こうした最近の先端動向について見てみよう。

図1 共同配送の論理とバーコードの活用(筆者作成)

資産・無形消費財の共用

プライス・アンド・ウォーターハウス・クーパーズ(PwC)が提出した分析レポート(*1)によると、シェアリングの本質は「資産の高度活用」にあるという。経済の仕組み全体で考えれば、ミクロな需要供給のマッチングを行い、休眠資産の有効な利活用や稼働率を上げ、付加的な経済価値(金銭の還流)を生むことが本来的に起きるべき変化なのである。

例えば、みずほ総合研究所が提出したレポート(*2)によれば、日本国内では車の稼働率が(自家用車をも含めると)一日平均1時間を切るという事実があるという。この「眠っている」時間が長い分野こそ、今後シェアリングが普及しやすい潜在的市場と考えることができる。

*1 What the Sharing Economy Means for Your Business.PricewaterhouseCoopers LLP, 2015. Consumer Intelligence Series.https://www.pwc.com/us/en/technology/publications/assets/pwc-consumer-intelligence-series-the-sharing-economy.pdf, last accessed May 3, 2017.

*2 『みずほ産業調査特集:世界の潮流と日本産業の将来像-グローバル社会のパラダイムシフトと日本の針路』みずほ銀行、54(1)、 176頁、2016年。

このことを、市場取引の歴史を遡って考えれば、そもそも、昔はトレーサビリティが無かったので売り渡し(買い切り)するしか方法がなかった。これが、資産稼働率が低位となる原因となった。トレーサビリティが実現した今日では、個人でも自分の持つ資産の利用権をライセンスとして、有効活用して稼ぐことが容易となりつつある。

例えば、近年進んでいる中国における自転車の大規模シェアリングを考えてみよう。これは、各地に設置された乗降場で自転車を借りれば、どこでピックアップしても乗り捨ててもよいというものである。利用登録者がスマートフォンでQRコードを読み取ることにより、利用の開始と終了が記録され、時間数や走行距離に応じて課金される。いわゆるレンタサイクルの拡張版と言えるが、ここまで大規模に展開することができたのは、乗降場・車両・利用者がネットワークで紐付けられていることが大きい。

今や携帯プレーヤーで手軽に視聴している音楽・動画のような無形消費財にも、シェアリングが広がっている。これも、原理的にはトレーサビリティで説明することができる。

遡れば起源は「通信カラオケ」である。入店時に定額の著作権料が含められており、カラオケボックスごとの歌唱記録を積算して著作権料の分配が行われる仕組みである。これは、雑誌や音楽・動画配信の登録型モデルに引き継がれ、段階分けした定額制サービスで利用者への課金を進めている。

図2 技術革新によるトレーサビリティ範囲の拡大(筆者作成)

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