所有は共有へと変わるのか
シェアリングは動産・不動産、財の種別を問わず当てはまる。かねてから、工事車両・工場・高度検査用機器の時間貸しなど、生産財・産業財でのシェアリングはみられた。現在では損益分岐点の低減により、遂に消費財についてもシェアリングが実現可能になったという見方もできる。利用者からすれば所有に伴う固定費用を節約できるし、所有者は休眠資産を有効活用できる。
他方で、共有、つまり所有のシェアリングはどう変化しているのだろうか。筆者の私見では、本質的な変化は利用においてほど大きくは未だ生じていないと考えている。
近代以前は、土地耕作における領主と利用者の関係を見ても分かるように、所有権自体が分かりにくく錯綜していた。近代社会において、大量生産・大量販売を確立するためには商圏を広く措定する必要があった。ところがその圏域が広がり切ったところで、信用の有無が問題になった。当時は信用が未だ充分に確立していなかったので、資産をめぐる全権利を譲渡し、対価を即時決済する、という売り渡しモデルが急激に広まった。そのために、込み入った権利関係を単純化し、相互に売買できるようにする所有権システムが発達したのである。
今日でもなお、所有権自体は変わっていない。先にいくつか例を挙げた消費財にしても、共同利用であり共同所有には到っていない。ただし、例外や、新しい形の萌芽が見えないわけではない。古くは家畜の共同所有などに始まった所有のシェアリングは、今日、クラウドファンディング、クラウドソーシングなどに姿を変えて広がりつつある。その開発・実装のインフラとしてインターネットはますます不可欠になるだろう。
根源は「信用の積み重ね」
シェアリングの根源にあるのは、企業や個人が顕名性に基づいた信頼を蓄積することで、支払信用を高められることにある。一面恐ろしい点でもあるが、トレーサビリティが高まると消費者側の履歴、それも単なる購買履歴ではなく、消費・利用性向をつぶさに蓄積することができる。キャッシュレスが進み、決済が進むとより多くの金額を信用で支払うことができるようになる仕組みである。
所有権販売モデルが人類史の中で席巻したのは、近代はじまって以後わずか数百年にすぎない。個々の財に個人の所有権を特定・付与し、貨幣価格を付けて売るというモデルが社会に蔓延した時代はごく例外的なのである。こうした長期的な視野に立てば、人びとの取引関係が、徐々に本来の形へと回帰しつつあると見ることもできる。
人は元来善である(性善説)として論じ切るのは難しい面もある。目下のところ、シェアリングは高度な信用を基礎とした、ある程度豊かな社会の現象と捉えられよう。
シェアリングビジネスの将来
議論を戻せば、ビジネスモデルとしてのシェアリングは未だ緒に就いたばかりだ。とりわけ、モノとしてのインターネット(IoT)などが進化することで、更にトレーサビリティは高まり、多くのことが実現できるだろう。大きな課題は、特にモノのシェアリングで、需要のピーク時に貸出数が足りなくなった場合、どう対応するかである。仕組みとしては、繁閑期の価格設定によってある程度調整できるだろうが、頻繁な利用者ニーズに応えるにはプレミアム会員制の導入などもあり得るだろう。今後ますます幅広い分野で期待される成長の伸びしろに期待を寄せたい。
國領 二郎(こくりょう・じろう)
慶應義塾大学総合政策学部 教授
1982年東京大学経済学部卒。日本電信電話公社入社。92年ハーバード・ビジネス・スクール経営学博士。93年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。2000年同教授。09年総合政策学部長。2013年より慶應義塾常任理事に就任し、現在に至る。
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