こんにちは。博報堂統合プラニング局の三浦竜郎です。今年モバイル部門の審査員をさせてもらいました。
モバイル部門は日本からグランプリが出たこともあり、審査でどんな議論があったのか気になっているところかと思います。
今日は審査員の目線から、受賞作品の傾向やグランプリについてご紹介します。
Oh! Future!
カンヌ審査員の仕事は、ちょっとした交流会から始まるのですが、僕がモバイルの審査員だと知ると、他の部門の審査員が口をそろえて言ってきたのが「Future!」という言葉。
モバイルは人間に24時間よりそっていて、生活を直接的に変えていく力がある。今や朝起きることだってモバイルなしにはできなくなってきたじゃないか。未来のクリエイティブにとって最も大切なプラットフォームは、なんだかんだ言ってモバイルなんじゃないかな。そんな風に言うのです。
言われてみると確かにそうで、サイバーは今や全てのクリエイティブのOSなので未来というよりは現在を切り取る鏡になりつつあるし、イノベーションには、技術とビジネスという少し違った視点がある。
さて、作品群の中に、どんな未来があるのだろうか。そんなことを考えながら、カンヌの審査は始まりました。
Mobile Jury 2017
今年のモバイルの審査員はAKQA新領域テック部門のヘッドであるアンディ・フッド審査委員長を筆頭に、年齢や性別、ナショナリティは違うものの、みんなデジタルに強い統合クリエイティブディレクターという極めて近いバックグラウンドを持っているのが特徴です。
そのため審査スタイルも、幅広いバックグラウンドから共通認識を探すというよりは、共通認識を土台として、カテゴリと厳密に合っているのか?過去の同カテゴリの作品群と比較して特筆すべき点があるのか?など、深い議論をするものとなりました。
仲がよく、判断が早いのも特徴で、事務局によると審査スピードはカンヌレコードを記録。毎日早めに終えては眠くなるまで一緒にエントリー作品や業界について語り合い、最終日のグランプリの議論の間ですら、ぎゃはは!と笑いあっていました。大切な友達もできたし、審査委員長アンディのリーダーシップはこれからの自分の働き方の規範となるような素晴らしいものでした。誰に聞いてもこれは珍しいことなんだそうで、ラッキーだったなと思います。
Mobile Lion 2017 2つの方向性
そんなディープな議論を重ねる中で、僕らが評価するものには、大きな方向性が生まれていきました。具体的な事例も交えながら見て行きましょう。
一つ目の方向性は「NEXT LEVEL」。モバイルというプラットフォームが持つテクノロジーや特性を深く理解し、クリエイティブのスタンダードをネクストレベルへ引き上げたものです。
HUNGERITHM
HUNGERITHM(ゴールド受賞)は、ソーシャルトレンドのリアルタイム解析技術を利用してリアルタイムに商品の価格を変動させ「You’re not you when you’re hungry.」というタグラインを美しくユーザー体験へと昇華させました。ソーシャルを怒らせようと操作する動きへとつながる点も特筆すべきポイントです。この仕事のクリエイティブチームの基礎力は、今年のエントリーで最も高いんじゃないでしょうか。
LIKE MY ADDICTION
LIKE MY ADDICTION(ゴールド受賞)はEvan(ゴールド受賞)やMoonwalking Bear(https://www.youtube.com/watch?v=Ahg6qcgoay4)といったフィルムカテゴリが長年かけて培ってきたストーリーテリング技術を、Instagramという新たなプラットフォームで定着させました。数週間の間にLikeを集めるGrowth hackの技術も卓越しています。一部の女性審査員からは「ビキニになってるだけじゃん」という鋭い指摘もありましたが…。
GORILLAZ APP
GORILLAZ APP(ゴールド受賞)は、ARやVRといったモバイル体験を非常に高い水準で定着させ、新しいユーザー体験で人々を夢中にさせました。モバイルセントリックなキャンペーンのお手本とも言えるでしょう。表現のトーンとしては一番好かれたエントリーな気がします。まさにNERD IS THE NEW SEXYといった感じ。
NEVER ENDING FOREST APP
NEVER ENDING FOREST APP(ゴールド受賞)は素晴らしいアートディレクションもさることながら、自分の塗り絵がARとなるユーザー体験に、審査員全員がうっとりしました。いい大人たちが塗り絵できゃっきゃ言っているこの状況を見ろ!塗り絵を完成させた時の喜びがネクストレベルへ引き上げられているじゃないか!と盛り上がりました。
CHAT YOURSELF
CHAT YOURSELF(ゴールド受賞)はAIチャットボットやFacebookデータを上手に使いながら、アルツハイマーの人たちが誰かと会話をして恥ずかしい思いをしたくないというインサイトをとらえている点が素晴らしかったと思います。プラットフォームだけでなくユーザーへの深い理解があると思います。人間に対する愛が、よい仕事を生むのだなと教えられました。
二つ目の方向性は「BRAVERY」。勇敢さを持って、プラットフォームでまだ誰も試していないことに挑戦したものでした。結果的にではありますが、僕個人は、この方向のエントリーを応援演説することが多かったです。