—他のDSP事業者にはない、The Trade Deskの独自性・強みとは。
世界各国のDSP事業者との違いは、大きく5つあると考えています。
一つは、“客観的”であるということです。メディアを保有する企業が提供するDSPは、配信先として自社メディアが優先されるきらいがあります。しかしThe Trade Deskは特定のメディアを持たないため、あらゆるメディアを視野に入れ、最適な配信先を選び取ることができます。幅広いメディアとパートナーシップを結ぶことができる中立的な立ち位置も強みです。
二つ目は、広告エージェンシーと敵対的な関係にないということ。当社は、既存のエージェンシーに取って代わる存在になろうとしているのではなく、エージェンシーとパートナーシップを結び、彼らがデジタル世界へとビジネスを広げるためのサポートをしたいと考えています。
三つ目は、グローバルであること。米シンシナティに本社を置くP&Gにしても、日本に本社を置くトヨタ自動車にしても、ビッグブランドは数百カ国で広告を展開したいと考えています。しかし、そのために数百ものテクノロジープラットフォームを使い分けたいとは考えていません。当社は世界各国のメディア環境に合わせてカスタマイズしたプラットフォームを提供するとともに、世界20都市以上にオフィスを構え、ブランド広告主をサポートしています。
四つ目は、オムニチャネル対応していることです。現代の広告における最大の問題点は、コミュニケーションがチャネルごとに分断されているがゆえに、ブランド広告主が意図したメッセージが消費者に届かなくなっていること。そのために、相当の予算をマーケティングに投じたにもかかわらず、消費者から嫌われてしまうという結果を生んでいるケースが少なくないことです。この問題を解決するための唯一の方法が、オムニチャネル対応だと言えるでしょう。
そして五つ目は、バイサイドに特化したDSPを提供していることです。DSPのみならず、SSP、アドエクスチェンジとあらゆるソリューションに手を広げるテクノロジー企業が増えていますが、そこでは“お客さま”である広告主と媒体主との間に利益相反が発生する可能性が高い。特にアジア地域でその傾向が顕著です。我々はバイサイドに特化してDSPを提供しているので、クライアントとの間に強い信頼関係を築くことができており、これが成長のカギになっていると考えています。
—グローバルと比較した、日本のデジタル広告・デジタルマーケティングの状況についてどう捉えているか。
日本のデジタル広告について、特に特徴的な点は3つあります。
まず、アトリビューションについて。日本は、世界の上位10位の市場の中で最も、ラストクリックのアトリビューションモデルが重視されています。プログラマティックバイイングが、ダイレクトレスポンス系のキャンペーンから導入され始めたことも理由の一つと考えられます。それゆえ日本では、認知から態度変容、検討、そして購入意思決定に至るまでのマーケティングファネル全体におけるプログラマティックバイイングが導入されにくい状況があると感じています。
二つ目に、テレビCMについて。世界中で出稿される広告の約半数をテレビCMが占めており、これはプログラマティックバイイングにおいても、広告ビジネス全体においても興味深い傾向です。その中で日本の特異点は、DVR(デジタル・ビデオ・レコーダー)の技術が他国と比較して遥かに進んでいることです。地上波でオンエアされた番組を含め、あらゆる番組が録画され、オンデマンドで視聴できる環境が整っています。
三つ目は、新しいテクノロジーを導入する土壌について。日本は長期的展望に立って(慎重に)戦略を策定する傾向が強く、一方でひとたび意思決定が下されると一気に実行を進めていく印象があります。米国や東南アジア地域などの国では、新しいテクノロジーの導入はより短期的な視点で行われ、そのテクノロジーを取り巻く市場は直線的に伸びていく傾向がありますが、日本の場合、新しいテクノロジーの導入はアイスホッケーのスティックのような形のカーブ(最初は平行線をたどり、ある一点を境に一気に上昇する)が描かれます。