日本のアドテク市場成長の鍵は、ラストクリック偏重からの脱却 — The Trade Desk CEO

アドテクノロジーは「広告メニュー」ではなく「プラットフォーム」である

—日本市場に参入して4年目を迎える。今後どのように事業を展開していくか。

最も重要なのは、寡占状態にある日本のDSP市場において、クライアントの信頼を地道に勝ち取っていくことだと考えています。The Trade Deskはバイサイドに特化したアドテクノロジー企業であり、クライアントとの利益相反を生まないビジネスモデルをとっています。これを理解いただき、時間をかけて信頼を醸成していきたいです。

それに加え、新しいビジネスチャンスを切り拓くための取り組みも、大きく3つの方向性で進めています。

一つは、ブランド広告主の中でも、特に多国籍企業との結びつきを強めることです。日本以外のエリアでは、すでにそうした企業との取引があり、彼らが日本市場に参入する際にはエージェンシー経由で引き合いをいただきました。ブランド広告主は、これまで以上にDSP活用に積極的になっていますので、大きなビジネスチャンスにつながると考えています。

二つ目は、新しい広告チャネルへの対応を進めることです。我々が日本市場に参入した2014年当時は、グローバルにおける売上の75%をディスプレイ広告が占めていましたが、現在は30%ほどです。一方で顕著な伸長を見せているのが、モバイル広告、動画広告、そしてオーディオ広告です。こうした新しい広告チャネルの伸長に合わせ、例えばSpotifyとパートナーシップを結び、オーディオ広告のバイイングにも対応しました。新しいチャネルに柔軟に対応することで、ブランド広告主はディスプレイ広告と同様に、動画広告、オーディオ広告、ネイティブ広告、ソーシャル広告などあらゆるチャネルで、データドリブンなデジタル広告を展開することができるようになります。ここで注意しなければならないのは、モバイル、動画、オーディオといった広告は、ラストクリックのアトリビューションモデルでは十分にその効果を把握できないということ。重視するアトリビューションモデルから変えていく必要があると考えています。

そして三つ目に、新しい配信先(インベントリ)の開拓をさらに進めていきたいと考えています。3年前は配信先にネイティブ広告もソーシャルメディア広告も全く存在しませんでしたが、ここ数年でApple、Google、Spotifyのような企業とパートナーシップを結び、インベントリを充実させてきました。今後もこれをさらに加速し、特にテレビ関係のパートナーとの連携を強化することで、ビジネスを拡大していきたいと考えています。

—デジタル広告によるブランド価値毀損について、ブランドマーケターの間で問題意識が高まっている。これについてどのように捉え、対応しているか。

世界中のブランドマーケターが重大な問題であると捉えており、とりわけ日本では強く問題視されていると聞いています。The Trade Deskとしては、主に2つの方向から、技術的にブランドセーフティの問題の解決を目指しています。

まず、インテグラル・アド・サイエンスやダブルベリファイなど、広告価値毀損の測定を手がける企業とパートナーシップを結んでいます。それに加え、自社内でも10人以上からなる専任チームを組織し、広告配信スペースのキュレーションを行っています。プログラマティックの手法を活用して1秒あたり700万件の広告をチェックしており、ブランドセーフティーの観点から問題があると判断した配信先は排除します。

ブランド価値毀損を懸念しているブランドマーケターは多いと思いますが、具体的に自社ブランドの広告がどこに配信されているのか、またその中にブランド価値を毀損する恐れがあるものはないか、実際に把握しているマーケターはそう多くないのが現状だと思います。アドテクノロジーを取り巻くキーワードは知っていても、その用語が指す意味や、実務においてどう活用したらいいかはわからないというマーケターが少なくないのです。

メディアが複雑化するにつれ、メディアバイイングもどんどん複雑化しています。ブランド広告主は、デジタルマーケティングについて高度な知識を持つエージェンシーと協業し、より専門性の高いサービスを受けることがますます重要になってきていると思います。

—日本のマーケターが知っておくべき、欧米におけるデジタル広告の潮流は。

日本におけるアドテクノロジーは、「コンバージョンを目的としたWeb広告」という、広告商品の一つのように扱われがちです。一方で欧米では、データドリブンマーケティングを実現するための「プラットフォーム」という捉え方が一般的です。アドテクノロジーが「プラットフォーム」として認識・活用されるようになることが、日本のアドテク市場の成長の鍵になると思います。

コンバージョンを目的とした単発の広告キャンペーンのみならず、認知から購入意思決定に至るまでのカスタマージャーニー全体をカバーするブランドキャンペーンにも、プログラマティックバイイングは適用できますし、デジタル広告以外のあらゆるメディアの広告枠も、プログラマティックに買い付けられる世界を、我々は目指しています。

かつてはデジタル広告の一部として捉えられていたプログラマティック広告は、欧米ではいまやメディアプランニング全体を牽引する存在になりつつあります。日本でも2~3年後には、プログラマティック広告は「メディアプランニングおよびバイイングをデータドリブンに行うことができる、メディア買い付けの方法の一つ」と認識され、活用されるようになるのではないでしょうか。

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