個人の情念で広告を成立させる
長久:尾上くんは、昔マンガを描いていたけど、今も描きたいという気持ちはないの?
尾上:マンガを描いていたのは、仕事が途中で消滅したりして世の中に全然出なかった、暗黒の時期です。たまっていた鬱憤をマンガで発散していたんです。
でも今は、仕事を出せるようになってきたので、描きたい欲が減退してしまってますね。たまに描きたいテーマが出てきますが。漫画を扱ったコンテンツで言いますと、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(こち亀)がものすごく好きで、その40周年&終了キャンペーンをやらせていただきました。
その中の一つが、低予算型テーマパーク「亀やしき」です。これは花やしきをジャックして、味のない焼きそばを3000円で販売したり、競馬中継が流れるメリーゴーラウンドをつくったりして、最後は「両さんが逃げたので終わりです」という張り紙をしました。
この仕事では、テーマパークの焼きそばの値段の高さや、メリーゴーラウンドのきなくささなど、以前から感じていたことをコンテンツとして表現できたかなと。両さんが本当にいたらこうするだろう、っていうのをひたすら考えました。
長久:個人的な情念がかなり入っているのに、きちんと広告として成立している。
尾上:ウェブ上には無限にコンテンツがあります。そういう中で勝つためには、他のコンテンツでは実現できないようなレベルの情念を出すことが大事だと思っています。
日清食品のカップ麺「日清のどん兵衛」のキャンペーン「どんばれシリーズ」が打ち切られたときも、打ち切りマンガ「どんばれ~どん兵衛物語~」をマンガ「魁!!男塾」で知られる宮下あきら先生に描いてもらいました。
ネームは自分で描いて何度も描き直しました。漫画家さんは本当にすごいと思います。最後は、打ち切りマンガのお約束で、全キャラクターを登場させて「どん兵衛のこれからにご期待ください。第1部完」としてもらいました。
長久:そこですよね(笑)。
尾上:そうですね(笑)。予定のない第2部をにおわせて、終わることが重要でした。自分が過去にマンガを読んでいたときに溜めた「連載打ち切りイメージ」を広告と掛け合わせたら、何ができるかなと企画したんです。
こんなふうに自分が好きなものを取り出して、広告を制作しています。僕の場合はマンガが多いですが、髙崎さんは今の自分が何で形成されていると思いますか。
髙崎:僕は完全に10代に出会った音楽と小説、映画、漫画。経験を重ねていくたびにその原点に引き寄せられていく感覚があります。あらがいようのないもの、として。
自分の好きなものをつくっているのではないけれど、自分の嫌いなものは絶対につくれないですから。
長久:確かに昔と比べて、個人の「好き」という感情に価値を見いだす機運をすごく感じます。
髙崎:メディアが激変してコンテンツがあふれ出したおかげで、世界中にいる「好きなひと」を見つけやすくなった。好き嫌いはより大事な感覚になっていく気がします
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