「集中」と「力み」は全くの別物である(ゲスト:村田諒太)【後編】

練習ほど「裏切る」ものはない?

中村:村田選手はどこかのタイミングで「これだけでは高みに登れない」と感じた瞬間があったと聞きました。それはいつ頃ですか?

村田:ラスベガスのデビュー戦、8戦目のときに悩みました。スパーリングは調子よくて、これでいけるんじゃないかと思ったときに試合内容が全くダメで。しかもラスベガスデビュー戦という大事な試合だったので自信を打ち砕かれて、このままやっていても世界レベルの選手にはなれないと、半ばあきらめそうになりました。でも、そのときに辞めなかったので、ここまで来れてるのかなと。

澤本:そのときに辞めようという気持ちもあったんですか?

村田:辞めようはなくて、「辞めたい」ですね。このままいってもどうせ俺はダメだからという気持ちがどこかにありました。ただ、辞めるというのはそんなに簡単なものじゃなくて、ここまでプロモートしてもらって来ているので。だから、そんな簡単に「辞めます」じゃなくて、辞めずに強くなる方法を選ぶしかありませんでした。

澤本:ラスベガスのとき、自分として納得がいかなかったと。それはどういう感覚ですか?

村田:年齢が18、19歳だったら伸びしろがあったかもしれませんが、そのとき僕は29歳でした。「俺のボクシングはこんなもんだ。何が世界チャンピオンだ」と思った時期でしたね。

澤本:でも、この前の試合では全くそれを感じませんでしたよ。

村田:そうですね。自信ってあるじゃないですか。僕が自信をつけるときは結果なんです。結果が伴ってやっと自信になる。この前の試合、負けはしましたが、世界レベルの選手とやって引けを取らないというものが1つ残ったので、それが自信をくれるんです。

いくらハードな練習をしても、形としてそういうものが残らないと自信はつきません。アマチュアのときに自信をつけた試合も、世界選手権で2連覇している選手に勝ったから、「よし、俺もいける」と自信がついたわけで。努力、忍耐、プラス結果が必要ですね。

そういう意味では、前の試合は勝ってないから、結果というのはおかしいかもしれないけど、あのレベルとやっても引けはとらないと自信になりました。だから、これからもっと自分自身を高めていけると思ってます。

権八:そのへんも正直ですよね。よくアスリートの方は抽象論というか、積み上げた練習だけ、練習は裏切らない、自分がやってきたことだけが自分の自信だとおっしゃるが。

村田:練習ほど裏切るものはないですからね。

一同:(笑)

村田:どれだけ練習しても世界陸上やオリンピック100メートル走で、練習してきた人間が肉離れするシーンを何回も見てきました。そんなもんです。

中村:再戦に対してはどういう気持ちでいるんですか?

村田:まだ再戦するか決まってないんですよ。WBC、WBOもうちでやらないか?と言ってもらっていて。そのあたりも含めて、会長に試合のことはお任せしています。ただ、僕は誰とやってもいいです。プレッシャーももちろんあるでしょうけど、リングに上がったらプレッシャーを感じるかというと、そんなことはありません。

実際に闘ってないからプレッシャーを感じるのであって、闘ってみたらプレッシャーを感じることはあまりありません。不安になることはだいたいそうで、起こってないことに対してですよね。ガンになったらどうしようというけど、ガンになった人はガンになったらどうしようなんて思いません。どう治そうかと考えます。

そう思うと、不安については考えないで、その場その場で生きていくこと。フランクルの言うように人生の問いかけに対して、その場その場で答えていくことが大事だと思っています。それしかありません。

次ページ 「今後も高め合える相手と闘っていきたい」へ続く

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